見出し画像

夏休みの宿題、講評をお届けします

今日は7月に公開した神山まるごと高専からの「夏休みの宿題」について、みなさんから提出してもらった内容の講評をお届けしたいと思います。

 開校前の学校が夏休みの宿題を出すという珍しい企画にもかかわらず、今回の夏休みの宿題を提出してくれた方が107名いらっしゃいました。開校前にも関わらず、多くの方々に参加を頂き、ありがとうございました。そして、「宿題、楽しかったです!」「出してくれてありがとうございます!」といった声が多数届いたことも、とても嬉しかったです。まずは内容についておさらいしましょう。

【神山まるごと高専からの夏休みの宿題】
あなたが人口1000人の町をゼロからつくるなら、どのような町にしますか?その町の特徴と魅力を、400文字以内で教えてください。

評価のポイント

 まずは講評の前に評価のポイントについて紹介していきます。「正解のない問い」について考える時、そのヒントになるのは「問いそのもの」です。まずは「何を問われているのか」について向き合いながら、今回の宿題の内容である「あなたが人口1000人の町をゼロからつくるなら、どのような町にしますか?」という問いの中でどのようなことが問われているかを振り返っていきましょう。

 まず、今回問われているのは「いまの町の問題点は何か?」でも、「町づくりのために何をするか?」でもなく、「どのような町をつくるのか?」という町の特徴です。この特徴を端的にわかりやすく表現することは、今回の課題を回答する上で重要なポイントと言えるでしょう。提出された回答の中には「現代の町のこんなことが問題だ」という、現在ある町の問題点や改善点を挙げることに終始している回答も多くありました。その視点を、新たに町を作る理由として据え、理想の町の具体的なイメージを文章で示すことができるか。ここがまず重要な点であったと言えるでしょう。

 そして、今回の課題では「どのような町をつくるのか?」ということについて、3つの条件が課されています。
 1つ目は、「あなたが」という部分です。これまでまちづくりに取り組んできた町長やコンサルタントではなく、「私だからこそ作れる町とはどのような町なのか?」ということが問われています。あなたの独自性、今までにない視点、つまり既成概念に捉われない回答であるかが重要でした。

 2つ目は、「人口1000人」という部分です。今回考えてもらった町の人口は100人でも10000人でもなく、1000人です。100人は大きく超えるけど、10000人もいない。「1000人だからこそ作れる町とはどのような町なのか?」ということが問われています。この1000人という人数であることをどのように活かすのかが重要でした。
 「1000人」というワードを具体的な数字として捉えることなく見過ごしてしまったり、漠然と「少ないな」と捉えてしまっている回答になっている方も散見されました。1000人だったら何ができて何ができないか、1000人という規模だからこそできることは何か。1000人の人にどんな役割をもたせるのかなど、正解のない問いへの入り口がこの「1000人」という設定には詰まっていました。

 3つ目は、「ゼロからつくる」という部分です。すでに人口1000名の町にテコを入れて変革するのでもなく、人口800名の町に200名を追加するのでもなく、人口1000名の町をゼロから作る。「ゼロから作るからこそ作れる町とはどのような町なのか?」ということが問われています。

キラリと光る回答の紹介

 では、ここからは宿題で問われた4つの観点から見て、キラリと光る回答について見ていきたいと思います。

 まず、「輸入品への依存の問題を解決する」という社会課題と結びつけて、特色ある町を描いたことが、素晴らしいと思いました。社会課題と結びつけることで、単なる「農業の町」ではなく、「野菜と共生する町」というキャッチコピーがより活かされていたようです。また、「野菜の担当を決める」というアイデアはゼロから作るからこそできるものだと思いますし、担当の人数配分も明記することで1000人という人数に具体的な意味をもたせて表現しています。
 さらに、自給自足だけでは町の収入がないということを考え、町としての収入を得るためにはどのようにすればいいかということについても考えられていました。「野菜大好きキャンプ」も楽しそうでしたし、野菜が苦手な子どもを持つ保護者さんに需要がありそうですね。

 続いて紹介するのは、1000人という人数をバランスよく配分し、モニターとしての機能が果たせる町とする、という非常に面白い回答でした。「1000名の町をゼロから作る」からこそできる施策であり、1000人であることの意味を表現することができています。また、新しい町の仕組みを詳細に説明しており、「確かに、このように運営できそうだ」ということがリアルに示されている点に面白みがあります。
 ただし、冒頭の一文の助詞の使い方が不適切で成立していません。「町」の字も問と違っています。一度読み返して正確な文にすると文章の良さが磨かれますよ。

 「共通の目標や好きなモノがある人ばかりの仲間との生活」が理想という個人的な好みを出発点としており、「あなたがつくる」という独自性が文章全体から感じることが出来ます。この回答の特に高く評価できる点は、子どもたちの代にまで触れていることです。ゼロから作る町ですので、多くの方がつくったばかりの町を表現することに終始しがちな中で、町のスタートから、その後どうなっていくのかという未来まで表現することが出来ており、循環の生まれる町が想像できました。
 惜しいのが1000人という人数の活かし方です。この町の人々は映画制作にあたって、「個々が得意分野を担当する」とあるので1000人の内訳として、それぞれの専門分野をもった人がバランスよく存在していると仮定されているのではないでしょうか。3分間の自己PRで審査するということは、それぞれに人数制限があり、計画的に移住を受け入れていくのでしょう。そのことに言及していれば「1000人」という条件がさらに活かされたと思います。

 1000人の住民を初めから用意するのではなく、世界中の優秀なゲームプレイヤーを町に集め、その魅力によってさらに町に人が集まり1000人を超える町にしていく、という段階的な成長を想定している点が面白いと思いました。いきなり1000人を集めることを狙う回答が多い中で、現実性をより感じることができ、また、「ゼロから町をつくる」という設定を存分に使っていると思いました。
 ただ、この町をつくる理由は何なのか、その目的が書かれていないのが残念でした。個人的な興味でも、日本の国としてゲームというソフトを売り出すのが重要だから、というようなことでもいいと思うのですが、なぜこの町をつくろうとしたのか部分を明確にすると、町に人が集まってくるという結果がセットになり、町の姿がより明確になるように思いました。文字数も30字ほどあまっているので、そこに触れられたらよかったかもしれません。

 この回答は、描写力・構成力が素晴らしく、頭の中に実際の町の風景がありありと浮かんでくるような回答でした。しかし、「人口1000人の素敵な町があるとしたら、どのように表現しますか?」という問いであれば、この文章が答えとして成り立ちますが、今回の「人口1000人の町をゼロからつくるならどのような町をつくるか?」という問いへの答えにはなっていないように感じてしまいました。問われたことに答える、ということはシビアです。これだけ素晴らしい作品をつくれる文章力があるのですから、問いに対して答えるということにはぜひこだわって欲しいと思います。チャンスがあったら次も読ませてもらいたいなと思う作品だったので、あえて取り上げました。

振り返りトークライブ開催決定!

 ここまで講評をご覧いただきありがとうございました。107名の方々の思いがこもった回答は私たちも読みごたえがあり、それぞれの方々の個性や可能性を感じることが出来ました。神山まるごと高専では、「正解のない問いに対して、独自の解を出せる人」を求めていますが、「正解のない問い」について考えるときのコツをつかんで頂ける機会になればと思うばかりです。

 今回のnote記事をベースにしながら、夏休みの宿題について振り返るためのトークライブを開催することになりました。詳細は下記をご覧いただき、ご参加下さい。

9月12日(月)⋅19:00~20:00
https://us06web.zoom.us/j/84987011370