【富士通】野心を胸に、テクノロジーとデザインの体現者に/スカラーシップパートナーインタビュー
まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。
神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。
企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付などにより、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。
神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
今回は、スカラーシップパートナーの1社である富士通株式会社の代表取締役社長を務める時田隆仁さんに、神山まるごと高専理事長の寺田親弘が、「富士通から見た神山まるごと高専の魅力と可能性」について伺いました。
日本のものづくりを牽引してきた富士通株式会社。神山まるごと高専の「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育成するというビジョンに、どのように期待をしているのでしょうか。
「ここでやってやろう」という野心・気概に感じる可能性
寺田:推薦、一般の入学試験を通して「野心的」な少年・少女が9倍の倍率を経て入学しました。富士通さんにも参画いただいているスカラーシップパートナーのサポートもあり、学費は無償。各地方から来たのもそうですし、経済的にも非常にカラフルな44名が集まってきてくれました。入寮のタイミングで、4名ずつどこの会社のスカラーシップに所属するかが決まり、そこから毎年4名ずつ増えていきます。
時田:野心的な44名というのは非常に良いですよね。素晴らしいと思います。「天才が集まって」というよりも「野心的」と表現するのが寺田さんらしい。「なにかここでやってやろう」という気概みたいなものがあると、そのエネルギーが様々なものを形作っていくような可能性も感じます。
寺田:もちろん、数学オリンピックに出るような、秀才タイプの方にも入学いただきたいと思います。ですが、自分が本当の意味で何で尖れるかはまだわかってないけれど、他人と違う「なにかしてやろう」という思いがある。むしろ、そんな思いを持て余してさえいる。そんな学生が神山まるごと高専に出会ってくれたら嬉しいと思います。
そして第一期生は、まさにそんな野心あふれる学生たちがそろってくれました。
元々、富士通さんには私が経営しているSansanで非常にお世話になっていて、しかるべきタイミングで、このスカラーシップの取り組みに声をかけたいと思っていました。機会をいただき、最初に時田さんにプレゼンを聞いていただいてから、神山町への視察や意思決定へのスピードが電光石火だったのが印象的です。
時田さんは、様々なニュースを伺うにつれ、実際に会社を変革しているという印象を抱いてはいたのですが、実際にこういうスピード感で、物事を動かしているのだと理解できた感じがしました。
時田:最初、寺田さんのプレゼンを聞いて、すごいなという意味で「こういう人がいるんだな」と思いました。Sansanを作っただけでは飽き足らず、学校に挑戦しているのかと。
この立場になって人づくりの重要性を感じています。企業の中でいろいろなトレーニングをするもっと前から、やる必要があり、そういう意味でも教育機関というものがとても重要だと思っていたところでした。
実は昔、富士通の企業内教育機関が蒲田にありました。当社が持っているコンピュータや通信分野に関することを教えていて、その名前が「富士通高専」でした。公式の高専ではなく、あくまで社内の名称でしたが、その富士通高専をもう一度立ち上げるか、なんてことも考えていました。
ただ、教育ってものすごく責任が大きい。加えて社内のトレーニングを超えてやるとなれば、その責任はさらに大きくなるし簡単に辞められない。ハードルが高いなと思っていた矢先だったんですよ。だから、学校を作るというお話をいただいたタイミングが良かったし、寺田さんのプレゼンを聞いて僕もワクワクしたのを覚えています。
理系だけでなく、右脳と左脳のバランスがとれた人材育成を
寺田:富士通さんが社内名称とはいえ高専をお持ちだったとは・・(笑)。縁を感じます。日々さまざまなビジネスパーソンに触れ、かつ経団連でも活躍されている時田さんから見た日本の人材育成の課題感はどういったものでしょうか?
時田:社外でもやはり人材育成はすごく大きなテーマになっています。よく聞く話ですが、日本はデジタルトランスフォーメーションが遅れてるから、理系人材が必要だという。ただ、僕自身そこには少々違和感を持っています。理系人材だけいても世の中うまくいかない。右脳と左脳がバランスよく機能しないといけなくて、文系人材、例えば社会学的なものも含めてデジタルトランスフォーメーションを進めてなくてはいけないと思います。
だからデジタルトランスフォーメーションは、ただITを何かに組み込めばいいという話じゃないということを折に触れて言ってきました。
寺田さんから、まず学校のコンセプトが「デザイン × テクノロジー」だと最初に聞いた時はびっくりしました。当社もここ数年デザインを軸に事業を行おうとしていますし、デザインの力とテクノロジーを掛け合わせて教育を行うことについては100%、僕は共感します。
私たちはテクノロジー企業なので、こういった教育に向き合う際にコンピュータの技術を教えたり、ネットワーク通信の技術を教えたりということだけになりがちです。ただそうではなく、例えば「AIの倫理」といった今大きくテーマになっているものや、「人とはどういうものなんだろう」という問いかけのようなものがあると、テクノロジーがより社会に活かせるものになる。これはダボス会議のようなグローバルな場所でも各国のトップたちがよく議論しているものです。
スカラーシップパートナーを通して、可能性が生まれる場を提供したい
寺田:ものづくりのトップリーダーである富士通さんからこのようにコメントをもらうのは嬉しいですね。ちなみに、時田さんは元々理系でいらっしゃって、そこから営業を希望したもののSEとしてキャリアを積まれて・・・というキャリアですが、このような考え方はどこから生まれたものですか?
時田:元々は、理詰めでやってきました。システム作りは理詰めでやらなきゃいけないし、何か問題が起きればやはり理詰めで解決していく。ただ、そうすると殺伐としてしまうんですよね。
富士通はずっとHuman Centric、人間中心ということを大事にしてきた会社なので、改めて人にフォーカスするべきだと。我々はコンピュータをはじめ精密機器などもお客様に提供しているのですが、機械を売ればお客様の課題が解決するというわけではない。ここ数年改めてそういう風に考えました。
寺田:私の感覚としても、「テクノロジー」と「デザイン」って陸続きで考えなきゃいけないのに別れた形で社会に出ていくことが課題感としてありました。もちろん、どっちかに多少偏りがあるかもしれません。ただ、全く別のことのように扱われているのに強く違和感があります。
そもそも最初から近い領域でやっていれば、シンプルに違和感なくそこを進められるのではと思っていました。
時田:スーパーコンピュータを例にとってみると、計算速度が世界一速いことは、作った本人も嬉しく思うかもしれません。それだけでもすごいことですが、それがどう活かさせるのかを考えなくてはいけません。その一方、問題意識のある人々が集まり、日々議論を行う。それだけでもいけない。
じゃあどうやってやるか。この広域にわたる不確実性を突破するには、テクノロジーが中心になると思います。
テクノロジーとデザインをどう近づけるか、どうリンクさせるかが課題で、それはもう「人」でしかできない。だからこそ人づくりはとても大切だと思います。それは1・2年、企業内トレーニングをすればよい話でもなくて、若いうちから教育をする必要があると思うんです。
寺田:そういった教育を施した若い人材が生まれていく。そのような若者たちとやっていきたいことは何かありますか?
時田:教育は責任を伴うとても重いものです。だからこそ寺田さんの行動は尊敬に値します。ただ、あまり深刻に考えてガチガチになると野心的な想いも消してしまいます。
僕としては、神山の良い雰囲気の中でのびのびとアイディアを膨らませて育った学生たちが世に出たら、どんなことになるだろうというワクワク感があります。一方、経験や年齢を重ねるにつれ、新しいテクノロジーやトレーニング、経験が生み出す知があると思いますが、それと出会った時にまた新しいイノベーションが生まれるかもしれない。そのポテンシャルをすごく感じます。その可能性を生み出す場を作りたいと思います。
寺田:神山にもいらっしゃいましたが、その印象はありますか?
時田:いつも都内でビルに囲まれているので、久しぶりにあのような里山に行きました。Sansanのサテライトオフィスにもお邪魔しましたが、昔ながらの家屋、古民家にびっくりしました。案内してくれた方々の話を聞くにつれ、こういうふうに町ができてきたのか・・と感心しました。みんないきいきとして、楽しんでますよね。伸びやかというか。ここに暮らす人や学生たちにはそれが伝わるのかなと思います。
寺田:時田さんがいらした当時は、実は私自身、精神的には結構追い込まれて辛い時期でした(笑)。やっていることの価値は私自身疑わないですが、共感してくれて本当にアクションをとってくれる経営者と会えるか会えないかが全てで、ドキドキでした。
ただ、いろんな会社が変革を掲げている中、時田さんは本当に実行されているんだなとアクションを見て実感しました。その時に、もしかしたら賛同してくれるんじゃないかなと思ったことを覚えています。
時田:よく大企業とスタートアップが二項対立で語られますが、スタートアップから見た時に大企業の課題ってやっぱりスピード感だと思います。だから、寺田さんに「検討中です」を繰り返して、迷惑をかけるようなことはしたくなかったんです。大企業にスピード感がないという風潮は自らが払拭したいと思っています。それが僕の富士通のCEOとしての 一つの想いなんです。
自然発生的に集まった60名の「神山クルー」※
寺田:富士通さんにはすでに社内で本校を後押しする応援団的な皆さんもいらっしゃると聞いています。教育に携わりたいと思ってくれている背景はどんなものがあるのでしょうか?
時田:手を挙げてくれた人たちは、富士通がスカラーシップに参画する前からこの神山まるごと高専のプロジェクトを知っていたと聞いています。こんなにも多くの社員が携わりたいと思ってくれたことに、僕自身はとても驚きました。
彼ら自身も、富士通が神山まるごと高専のプロジェクトに参画することになって、驚いたんじゃないでしょうか(笑)「神山クルー」※と名前がつけられていて、60人という大きなコミュニティーとなっている。社内からそういう意志が湧き上がっているのは本当に嬉しいです。
※60名は2023年2月の取材当時、現在は94名(2023年8月時点)
ただ、当社のサポートで神山まるごと高専をがんじがらめにしたいとも思いません。必要なものはサポートもするし、時には口を出すかもしれないけれど、適切な距離感でいられたらと思っています。
寺田:御社としてやっていきたいことは、その神山クルーの皆さんや本校の学生たちが自然と作っていけたらベストですね。
時田:そうですね。沸き起こってきた想いを壊したくはないので、神山クルーのメンバーにああしろ・こうしろと言うつもりは全然ありません。実は、最初は、奨学生たちに富士通が持っているスーパーコンピュータを使ってもらったら面白いのでは、とか思ったりしていましたけど、最近は言わないようにしています。「使わせよう」みたいになってしまうのはよくないので、そのあたりは神山クルーと学生たちで考えてもらえたらと思います。
寺田:ありがとうございます。素敵な形ですね。話は変わって時田さん自身のお話を伺わせてください。15歳の時はどんな学生でしたか?
時田:僕は中高一貫の男子校に通っていて、サッカー部に所属していました。勉強はそんなに好きじゃなくて、サッカーの練習をして、ゲームセンターに寄って帰るみたいな生活。15歳の時に何を考えていたかあまり思い出せないですね。楽しかった記憶、伸び伸びしていた記憶があります。
その後、周りも理系の学生が多かったので、大学進学も理系の道に進みました。
寺田:キャリアを決めたのはいつ頃だったんですか?
時田:自分の意志で進路を決めたのは、入社したときかもしれません。東工大を卒業して、その研究室の恩師に富士通を勧められたんです。恩師も、迎えてくれた社員もきっと僕のことを株式会社富士通研究所(※現在は富士通株式会社に統合)に進むと思っていたんじゃないでしょうか。ですが、システムエンジニアの道に歩むことにしました。人前に出て、いろんな経験をしたいと思ったからです。それ以降、ずっと金融のお客様のシステムエンジニアをしていました。
社長になる前に、ロンドンに赴任したこともありました。僕自身、東京で生まれ育って、お客様も都内が多く他県にすらあまり行ったことがなかったので、これは僕の人生の中でも最大の経験でした。ロンドンの富士通と日本の富士通は当時全く別の会社に見えました。それを一緒にしたいというのが僕のCEOになってからのテーマにもなりました。
そういった多様な経験は、若いうちにできたら良かったなと思う点もあります。だから神山まるごと高専は非常に良いと思います。
富士通奨学生には、臆することなく有名になって欲しい
寺田:ありがとうございます。最後に、富士通の奨学生に一言コメントをいただけると嬉しいです。
時田:そうですね。神山で学んだこと、クラスメートたちとの出会いやスカラーシップ、起業家講師との出会い、町民との出会いなど、学んだこと、見聞きしたことを存分に使って欲しいと思います。富士通のCEOとしての立場で言えば、ぜひテクノロジーを存分に使って欲しい。デザイン×テクノロジーを体現する人になって欲しいと思います。
加えるとしたら、ぜひ「有名になって欲しい」です。日本では奥ゆかしさが美徳とされていますが、謙虚ばかりではなく、胸を張って自分たちのやっていることを発信する。例えば富士通で言えば「世界一のスーパーコンピュータを自分たちが作った」とかです。よく海外と比較されたり、ヨーロッパにルールメイキングされていると言われたりもしますが、日本にも優れているものはたくさんある。そういうことを胸張って言えるほど有名人になって欲しいです。
寺田:「有名になって欲しい」いい言葉だなと思いました。日本ではあまりそういったことは言わないですが、日本を代表する富士通のトップがそう言ってくれたことは大いに勇気づけられます。
本日はありがとうございました!