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神山の農業を次世代につなぐフードハブとコントラクトフードサービスの改革を進めるモノサスが、神山まるごと高専の給食にかける想い

まるごとnote編集チームです。

「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専(仮称・認可申請中)は、全寮制の学校です。

学生の毎日の食事を担当するのは、神山町の株式会社フードハブ・プロジェクト(以下、フードハブ)と東京代々木に本社がある株式会社モノサス(以下、モノサス)。フードハブは、神山町で人気の食堂「かま屋」や「かまパン&ストア」を運営したり「地産地食」をモットーに、農業研修生の育成や、子どもを対象にした食農教育など、神山の農業を次世代につなぐ取り組みをしている会社。モノサスは、Web制作を主事業にしながら、2020年からコントラクトフードサービス「MONOSUS社食研」を立ち上げ、「Good Food, Good Job! 良い職は、良い食から」を合言葉に、社食と学校給食の改革を推進している会社です。

「日本一、地産地食な給食」を目指す、神山まるごと高専の給食。
一緒に提供を行うフードハブとモノサスは、高専の給食を手掛けることに、どのような想いがあるのでしょうか。

今回、フードハブ共同代表取締役農業長の白桃薫さん、同社食育係/NPO法人まちの食農教育代表の樋口明日香さん、同社グループの株式会社モノサス MONOSUS社食研/食事業開発ディレクターの荒井茂太さんの3名に伺いました。

プロフィール

株式会社フードハブ・プロジェクト食育係/NPO法人まちの食農教育代表
樋口明日香さん
徳島市出身。神奈川県で小学校の教員を経験後、2016年株式会社フードハブ・プロジェクトに入社。2022年3月よりNPO法人まちの食農教育代表


株式会社フードハブ・プロジェクト共同代表取締役農業長
白桃薫さん
神山町出身。2006年神山町役場入庁。21年3月末退庁し、株式会社フードハブ・プロジェクト共同代表取締役農業長に就任

株式会社モノサス MONOSUS社食研/食事業開発ディレクター
荒井茂太さん
大阪府出身。Google Japan初代フードマネージャー、フードテックカンパニーのノンピ取締役などを経て、2020年6月に株式会社モノサス入社

農業の課題解決のために、人を育て、農家を支える

ーーまずはフードハブについて教えてください。

白桃:フードハブは「地産地食」を合言葉に、「神山の農業を次世代につなぐ」取り組みをしている会社です。

高齢化が進む中、農業の担い手は減少し、田畑が荒れてしまうことが全国的な課題になっています。それは神山でも顕著であり、それを解決するために2016年に設立しました。

農業の課題を解決するには、農家人を育てなければいけません。同時に、農家を支える仕組みづくりも必要です。

そこでフードハブでは、『かま屋』(食堂)と『かまパン&ストア』(パン・食品販売店)の運営、加工品の開発・製造・販売を通じて、地域の作り手が作ったものを、地域の人をはじめ、応援してくれる人たちが食べるきっかけを作ることで、町の農家さんを支えようとしています。

「かま屋」店内の様子

また、町内の学校と連携して食育授業を行うなど、立ち上げ当初から食農教育も行ってきました。農業や食を実際に体験しながら、その大切さを子どもと大人の双方に理解してもらう。それも農家さんを支えることにつながっていくと思っています。


ーー今年3月、フードハブの食農教育部門は「NPO法人まちの食農教育」として独立しました。どういう背景があるのでしょうか?

樋口:「農体験で米作りをしたことで、今まで素通りしていた風景に気づくようになった」と、中学生の子が話してくれたことがきっかけでした。フードハブがやっている食農教育に加え、通学中や放課後など、町の大人たちが身近にいる中で育ったことで、その子はそう感じてくれたのだと思います。


私はその言葉がすごくうれしかったし、「この活動を継続していかねば」と強く思いました。活動をまずは持続可能にしていくために、NPOにした方が応援してもらいやすいし、行政機関を含めて他機関との連携もしやすい。そこで、食農教育部門をNPO法人として独立することになりました。

白桃:僕は神山出身ですが、僕が子どもの頃はじいちゃんばあちゃんが一緒に住んでいて、自分たちが食べる野菜や米を当たり前のように自分たちで作っていました。いわゆる兼業農家がたくさんあったんですね。
でも、今ではそういう家庭はほとんどない、言わば絶滅危惧種です。このままだと、10年後にはほぼなくなってしまうと思います。

樋口:周囲に田畑が広がっているこのまちでも初めて農作業をやったという子どもが多いと思います

白桃:そういう意味でも、農体験を意図的に教育過程に組み込まなければいけないと思っています。かつての「自分が食べる食材を自分で作る」という流れは、自然には起こらない。それが神山の現状だと思います。

神山まるごと高専の給食への想い

ーー神山まるごと高専の給食はフードハブとMONOSUS社食研が作ってくださることになりました。皆さんにはどのような想いがありますか?

樋口:とにかくうれしいですね。私は元小学校教師で、当時から給食に関われる方法を探していました。

ーーなぜ「給食に関わること」が夢だったのでしょう?

樋口:教員時代に料理教室に通い、そこで基本調味料と素材さえあれば、食卓に出てくる料理は全て自分の手で作れることを知りました。その時に、「これは面白いぞ」と思ったんです。

好きなものを買って食べるのは簡単だけど、本当に最低限の調味料だけで自分で全部作れたら、子どもたちにとっても楽しいはず。「これとこれを組み合わせたら、この味になるだろう」と理解できるのは、まさに学びですよね。そこからフードハブに入って農業にも触れるようになり「育てる」プロセスを知るわけです。

教員時代のわたしは給食の楽しさをどうやって見つけ、子どもたちに伝えればいいかがわからなかったけれど、「育てる」ことから「食べる」ことまでの連続した体験は、まさに教育の場でやりたかったことです。

自分の食への関心と、教育をうまくつなげたい想いは自分の中にずっとあったんです。

株式会社フードハブ・プロジェクト食育係/NPO法人まちの食農教育代表樋口明日香さん


白桃神山に新たにくる子どもたちに神山の食材を使った食事を提供できることは、単純にうれしいですよね。身近な人に自分たちが育てた物を食べて欲しいと思うのは、農家として当たり前の思いですから。

これは神山に限らないと思いますが、子どもの数が減っている地域では、子どもが近くに存在していること自体がかけがえのないことです。声がするだけでうれしい。そんな子どもたちへ地域の食材が届けられること自体に、シンプルな喜びがあります。


高専の生徒たちは「新たな地域の人」になるわけで、高専に給食を提供し、学生がそれを食べることは、神山の農家を支えることにもつながります。それはフードハブがやりたいことでもあるから、一緒に同じ方向に向かっていけると思っています。

そしてもう一つ、給食を通じて、神山にも「農業×テクノロジー」の動きが起きるかもしれないと期待しています。

広大な農地を持つ地域での技術革新は進んでいますが、神山のような中山間地域の農業は、市場が小さいこともあって技術革新から取り残されています。それに対して、高専の学生さんたちと農家さんがつながることで、何か新しいことが起きるかもしれませんよね。


株式会社フードハブ・プロジェクト共同代表取締役農業長白桃薫さん

「良い食材を使う」を超えた、教育体験の提供

荒井:私は高専の給食のお話を聞いた時、チャンスだと思いました。

他の地域でも良い給食の取り組みをしている学校はありますが、ほとんどは「良い思想を基にした給食プログラム」と「良い食材の使用」にとどまっており、同じくらい重要な「オペレーション」には手が付けられていません。

給食プログラムを考える人たちと、農家や畜産家などの生産者、そして調理の工程を含むオペレーション担当者の三者でディスカッションをしない限り、良い給食にはならないと私は考えています。

ーーどういうことでしょう?

荒井:「食べる」とは、食事を中心に豊かな生活の営みを広げることです。食事は体をつくるものですが、同時にコミュニケーションの場でもあるのです。「オーガニックの食材を使っている」といった“点”だけでなく、「どう体験するか」まで含めた“面”で考えなければ、本質的な取り組みにはなりません。

高専の給食でそれができるのは、もともとフードハーブが「地産地食」をキーワードに、食の循環を通じた人の営みに向き合ってきた土台があるからこそ。

その土台の上に、食育プログラムを考える樋口さんと、生産者さんを理解している白桃さんがいる。そして手前味噌ですが、私はこれまでGoogle Japanの社食をはじめ、高いレベルのオペレーションが求められる環境を立ち上げ、マネジメントしてきました。近しい関係性の中で、三者が相談し合える環境が整っているのは大きいです。

株式会社モノサス MONOSUS社食研/食事業開発ディレクター荒井茂太さん

ーー企画、食材、オペレーションの三つが揃っているのがポイントなのですね。

荒井:そしてさらに、依頼者が応援し、関わってくれることも重要な要素です。その点、神山まるごと高専は全面的にわれわれと一緒にやろうとしてくれている

これだけの要素が揃ってるのであれば、他の地域にとっての先進事例となるような取り組みを作っていけるはず。そう思っているので、これからがとても楽しみですね。

神山の旬の食材を使った「日常の食」を提供したい


ーー具体的にはどのような給食を作る予定でしょうか?

荒井:高専の食事は「日常の食」です。熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、ジューシーなものはジューシーに。「その季節に地元で採れた旬の食材」を使って、ホッとするような、基本的な食事を追求したいと思っています。
この当たり前のようなことを毎日継続させるのが一番難しいのです。

今は年間を通じてどんな食材でも手に入りますが、旬ではない季節に採れた野菜は味が劣ります。それを体感できると、食の豊かさは増すのではないでしょうか。

給食を通じて、食の本質を知ってもらいたいですね。「物事の本質」を考える力を、食べるものごとから感じてもらえたらいいなと思います。

「給食は限られた時間の中で厳密な衛生管理をしながら作るので、通常調理が単純・作業化されがちです。でも、高専の給食では野菜に切り込みを増やして食べやすくするなど、そういう一手間を入れることを追求したいですね」(荒井さん)

白桃:作り手の立場としても、「夏はなすび(なす)を食べきろう」という考え方があっていいと思うんですよ。旬の野菜は、いっぱい取れますから、この地域の人は夏の間、なすびやきゅうりを毎日のように食べています。

辛子漬けにしたり、佃煮にしたり、そこに飽きないような工夫と手間をかけて日々食べることも、この地域で生きていく力の一つ。それを給食で示せたら面白いなと思います。

ーーもしかしたらなすやきゅうりの旬が夏だと知らない学生もいるかもしれませんね。

白桃:そうですよね。現代の農家は「旬の時期に旬の野菜を作らない」と言っても過言ではなく、季節外れの野菜を作るのが仕事としての農業になっています。でも、本来それは歪なこと

そういう社会構造も含めて、学生の皆さんが新しいことに気付くきっかけが与えられるのではと思います。じゃがいもや玉ねぎなどのストックできる野菜も使いつつ、農家側が歩み寄って、できるだけ良い状態の旬の食材を提供したいですね。

メニューを考えて調理する側には高いレベルが求められますけど、荒井さんたちなら安心です(笑)


ーー神山で採れる食材には、何か特徴などあるのでしょうか?

荒井:僕は普段東京で生活しているのですが、神山に行くととてもチャージされるんです。便通が良くなって、体が循環している感じがする。やはり地域で採れたものをその場で食べるのは、いろいろな意味で体に良い影響を与えるのだと実感します。

ただ、神山在住のメンバーにこの話をしても、当たり前すぎて響かないんですよ(笑)

白桃:僕らにとっては普通ですね。

荒井:その当たり前が価値だと伝えるのも僕の役割東京で生活する僕らにとってはとても響く話なので、これを他の地域に正しく伝えることにも大きな価値があると思っています。

農と食は「ものづくり」でもある

ーー食育の観点では、神山まるごと高専の給食をどのような場にしたいですか?

樋口:給食はみんなで同じものを食べる時間です。それは独特な体験で、マイナスな体験にもなり得ると思っています。

この間メンバー同士で「子ども時代に体験した給食」についてディスカッションをしたのですが、共通で出てきたのが「ぬるい」「パサパサ」「伸び伸び」といったワードで。出身地はバラバラなのに、これが給食の共通体験だったんです。

こういったイメージはオペレーションの工夫や新鮮な食材の使用など、ちょっとしたことで改善できるかもしれません。そうやって「今日の給食おいしそう!」という待ち遠しい気持ちや、家の人に伝えたくなるような美味しさなど、感性で食に向き合う姿勢を育んでいければと思っています。

ーー農体験で学生と一緒にやりたいことはありますか?
樋口:まだ全然イメージできていないですけど、草抜きはしてほしいですね(笑)

白桃・荒井:(笑)

樋口:実は私が最初にフードハブに来てやったのが田んぼの草抜きだったんですよ。しんどかったけど、その後に食べたご飯がすっごく美味しかったことは今でも鮮明に覚えています。苦労をさせたいわけではなく、そうやって作られていることを当たり前に受け止めてほしいですね。

白桃:農作物以外でも、何でもそうですよね。ウェブサイトも、裏側でプログラミングやデザインをする人がいる。そういう過程を知らないと表面しか見えなくなってしまうけど、その手前の積み上げている部分が一番本質的というか。

樋口:特に食には、地域や風土と強く結びついた「食文化」があります。それはテクノロジー領域とは違う部分かもしれませんが、神山ならではの食を体験し、そういう文化的な文脈を感じることは、プロダクトを作る視点を育むことにも通じるかもしれませんね。




ーー農産物や食事を作るフードハブとMONOSUS社食研、テクノロジーやデザイン教育を軸に据える神山まるごと高専。どちらも「ものづくり」をしていて、かつそれによって「コト」を起こそうとしている。一見全くの別物ですが、根底には共通点がありますね。

樋口:神山まるごと高専は私学だから、一般的な給食とは違う枠組みの新しい給食を作れる可能性もある。デザインやテクノロジー、起業家精神を大事にしている学校に、食がどういう位置づけになるのかも楽しみです。高専と一緒にやるからこそ、より良い食の形をつくれるのではと、大きな期待と希望を持っています。

実は、フードハブでは高専に先駆け、オペレーションはMONOSUS社食研と連携し、今月から神山町の学校給食を手掛けています

NPO法人まちの食農教育では、栄養教諭や学校の先生方と相談しながら、農体験と給食、食育をつないでいく「学校食」のあり方を考えていきます。農体験から給食までの「育てる・つくる・食べる・つなぐ」の一連の流れを子どもたちに見せられるのは、とても大きなことです。

学校給食に関する期待や不安など、町の人や保護者の声を聞きながら、皆さんの声と学校の取り組みをつなぐ役割を私たちが担えるといいなとイメージしています。

そうやって得た知見を生かしながら、神山まるごと高専の給食をより良いものにしていきたいですね。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影] 生津勝隆


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