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【セプテーニグループ】人が生み出す価値は、教育から生まれる/スカラーシップパートナーインタビュー

まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。

企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付により、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。

神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
https://kamiyama.ac.jp/news/0309-01/

このスカラーシップパートナーの一社が、株式会社セプテーニ・ホールディングスです。

インターネット事業を中心に営む同社は、なぜ神山まるごと高専に10億円もの投資をしたのでしょうか。セプテーニ・ホールディングス代表取締役の佐藤光紀さんに、神山まるごと高専理事長/Sansan社長の寺田親弘が聞きました。

教育はセプテーニグループの企業理念につながる大切なテーマ

寺田:佐藤さんとは僕がSansanを創業した頃、15年ほど前からお付き合いがありました。年はほぼ一緒ですけど、先輩経営者として尊敬しています。

佐藤:不可能に思えることを構想し、実際に実現して世の中に新しい変化を起こしていく。そんな起業家としてのセンスとスケールを感じたのが、寺田さんと最初にお会いした時の印象でした。

だから最初に寺田さんがSansanの経営をやりながら学校づくりという大きなチャレンジをすると聞いた時、直感的に「面白いことが起きるんじゃないか」と思いましたね。

特に「起業家がつくる学校」というのが刺さりました。現役の起業家が、日本で例を見ない教育の在り方をゼロから立ち上げる。今までないアプローチで世の中に新しい変化を起こすのではないかと感じたのが、一番面白いと思った点です。

代表取締役 佐藤 光紀
立教大学法学部卒業。1997年セプテーニ・ホールディングス入社。1999年 新規事業責任者としてインターネット広告事業を立ち上げる。2006年 セプテーニ代表取締役社長に就任。2009年 セプテーニ・ホールディングス代表取締役(現任)社長に就任。2017年グループ社長執行役員に就任(現任)。

寺田:ありがとうございます。神山まるごと高専をつくる過程での資金調達には大きく2段階あり、最初は開校資金を集めるのが目的でした。その際、セプテーニさんにご相談をさせていただき、ファウンディングパートナーとして寄付をいただきましたね。

佐藤:教育は、我々の事業や、その背景にある企業理念につながるテーマです。

当社は「人的資本経営(※)」が注目される前から、「企業の価値の根っこは人と組織である」と言い続けてきました。

※従業員が持つ知識や能力を「資本」とみなし、投資の対象として持続的な企業価値の向上につなげる経営の在り方

そして人が生み出す価値は、家庭や学校でいろいろなことを学び、人間として育っていく過程で生まれるものです。

ですから、教育は当社として主体的に取り組むべきテーマの一つです。ただ、現状のリソースではやれることに限りがありますし、当社が事業として直接手がける範囲にもなりにくい。

だからこそ寄付をする意義を感じました。当社のミッション「ひとりひとりのアントレプレナーシップで世界を元気に」を実現するには、神山まるごと高専のプロジェクトが成功した方がいい。そうやって自分ごととして感じられたのは大きかったですね。

寺田:これまで100社を超える企業に寄付やスカラーシップパートナーのお願いをしてきましたが、セプテーニさんからは「人への投資が会社の未来をつくる」と本気で考えているのを感じました。人的資本への投資について、ここまで解像度高く考えている企業はほとんどないのではと思います。

スカラーシップパートナーは「起業家らしいアプローチ」

寺田:資金調達の2段階目は、学費無償化の実現でした。そのために100億円単位のファンドをつくることを掲げ、セプテーニさんにはスカラーシップパートナーにもなっていただきました。

佐藤:正直、ただの寄付であればこの規模の金額の投資には至っていないと思います。神山まるごと高専への共感はあっても、10億円という金額は一企業が寄付として簡単に出せる金額ではありませんから。

だからこそ、教育における資金調達の新しい枠組みとして今回のスカラーシップパートナーのアイデアを伺った時は膝を打ちました。「これならうまくいくだろうな」と感じましたし、よく考えられた仕組みだと思います。

まさに起業家がつくる学校ですよね。起業家らしいアプローチで、教育市場の外から参入するがゆえに、起業家としての当たり前の考え方を輸入しているのを感じました。

寺田:うれしいです。

佐藤:企業のCEOには、株主から預かっている資本を企業の価値向上に使う責任があります。この仕組みであれば、長期的な理念の実現に向けた投資として、定量、定性の双方でリターンが出ることがイメージできました。

あくまで商売人ですから、善意だけで動機づけをされているわけではなく、当たり前ですが算盤も働いています。その勘定からしてもこれは合理性があるし、大きなリターンが出ると感じましたね。

寺田:僕らもスカラーシップパートナーの紹介をする際、「これは寄付ではなく、投資機会です」とお伝えしていました。

各スカラーシップパートナーが投資してくださったお金が、毎年4人ずつの奨学生を生んでいく。これが100年、200年と続くかもしれないと考えた時、この仕組みが生み出すリターンは意味あるものになるだろうと思っています。

佐藤:今回のような長期的な投資は「何が起こるか」を想定しにくい分、リスクも大きくなります。ゆえに「なぜこの投資をするのか」という疑問が起きやすく、取締役会では「セプテーニグループが神山まるごと高専に投資をすることで何が起きるのか」の解像度を上げる必要がありました。

AといえばすぐにBだと分かるものではなく、AからZまで説明をしなければ伝わらない。それを言語化する作業は、正直大変でしたね。

寺田:ありがとうございます。

佐藤:でも、その過程を通じて、神山まるごと高専に関わる皆さんとシンクロする感覚もありました。寺田さんをはじめ、関係者の皆さんは本気でこのプロジェクトにコミットしている。その本気度を我々が自分ごととして言語化していくことで、解像度を上げていけたなと思います。

セプテーニ奨学生を通じて、世の中に仲間を増やしたい

寺田:先ほど投資の時間軸の話が出ましたが、ある会社からは「スカラーシップパートナーになったとして、学校が存続している間に会社が存続しているかはわからない」と言われたことがありました。

佐藤:なるほど。面白いですね。

寺田:企業経営と学校運営のそもそもの時間軸の違いに、僕は途中まで気づかなかったんですよ。「卒業生が出るのが2028年だ」と気づいたのも結構あとの方で(笑)

佐藤:確かに企業の時間軸は、学校よりもだいぶ短いですよね。当社はIT業界の中では長い方ですけども、それでも30数年しか存続していません。

寺田:学校は「ずっと続いていく」ことを前提として世に生まれています。そういう観点でも、未来が続くことが保証されていない企業体が投資として学校に関わっていただく価値はあるのだろうと思っています。

佐藤:スカラーシップパートナーに参画することで、毎年4人のセプテーニ奨学生が生まれます。10年で40人、20年で80人、30年で120人のセプテーニ奨学生が育っていくことは、企業の枠を超えて当社の思想や理念を広く世の中に届けることにもなると思っています。

というのも、必ずしも当社に入社し、今働いている人だけが我々の企業価値の向上に貢献するわけではないからです。

例えば、当社ではアルムナイネットワークを通じて、自社のHRテクノロジーによってセプテーニ卒業生の成長を支援しています。それは広く言うと、社会に自分たちの支援者や共感者を増やす作業です。

つまり、当社の思想にある程度共鳴、共感したセプテーニ奨学生が社会に出ていくことは、人材市場と関わる範囲をより広げ、仲間を増やすことにつながります。

寺田:神山まるごと高専の生徒は一学年40名ですが、受験生はその何倍もいて、受験はしなかったけど高専に興味を持ってくれた子はもっとたくさんいます。さらにその子たちの親や友達、先生と考えていくと、こんなに小さな学校でも、その波及効果は非常に大きいのだと感じています。

セプテーニの人的資本の考え方を教育現場で生かす

寺田:多くの子どもたちにとって、学校選択は最初の生き方の選択です。そのタイミングで、十代の若い子たちが起業家をはじめとした野心めいたものに触れることは、中長期的に見るとさまざまな意味を持ってくるはず。

それが毎年連なり、卒業生が新しいチャレンジをし、それがまた磁力になって……と、長くインパクトがもたらせるのではと想像しています。

佐藤:金融の世界に「複利」という言葉がありますが、まさに複利でインパクトが増えていきますね。濃縮された強い志は、組織の規模が小さい方がより濃くなっていく。それは原理であり、小規模であるメリットだと思います。

ある分野にスターが1人いればその分野に憧れる人が増えるのと一緒で、インパクトの強い原石はたくさんの人に影響を与える。そして、それはリアルに起きるのだろうなと思います。理想やロマンではなく、現実として出せるインパクトなのだろうと。

寺田:先日、ついに第1期生の入学試験が始まりました。もう、僕は試験会場をぐるっと回るだけでグッとくるものがあって(笑)
※取材は2022年12月に実施

その40人の中の4人がセプテーニ奨学生になりますが、その4人に会社として本気で向き合っていただけたら、「この投資をやってよかった」と言っていただける日がきっと来る。改めてそう思いました。その未来を絵空事にしないように、ぜひ一緒に作っていければなという気持ちです。

佐藤:事業上でもうまく連携をしながら、神山まるごと高専がより発展するために、我々も当事者として価値を提供していきたいと考えています。

10代の若い方々が活躍するための環境をAIテクノロジーによってつくっていくのは神山まるごと高専の理念に合うでしょうし、我々にとっても、当社の人的資本経営や人材開発の仕組みを教育の現場で生かしてもらうことによって、普段の事業では得られない新たな発見があるだろうと思っています。

そうやって事業上の連携によって、当社が企業として成長するためのヒントを具体的に得ながら、神山まるごと高専の発展に貢献する。そんなお互いの成長につながるパートナーシップの在り方を見つけていきたいですね。

2023年4月2日に開校した神山まるごと高専

15歳で音楽を始め、24歳で生き方を変えた

寺田:話は変わりますが、佐藤さんは15歳の時、どんな学生でしたか?

佐藤:「世の中にインパクトのあることを成し遂げたい」という、ぼんやりした野心のようなものが生まれ始めた時期だったと思います。

とはいえ、何をすればいいのか分からずにもがいている時期でもあり、いくつかの試行錯誤を経て15歳から始めたのが音楽でした。それからの約10年はミュージシャンとして生活し、24歳で生き方を変え、インターネットで事業を起こしました。

実は、音楽を辞める最後の後押しになったのは、宇多田ヒカルさんのデビューだったんです。

寺田:へー!

佐藤:それまでの自分がリスペクトしていたアーティストは全員年上だったので、「いつか逆転すればいい」と、敗北感を反骨心に変えていたんです。音楽はスポーツと違って勝ち負けがはっきりしない分、自分に言い訳できる面もあるんですよ。

そんな中、年下のアーティストに初めて打ちのめされたのが、宇多田ヒカルさんでした。「このまま音楽を続けてトップアーティストになれるのか」とモヤモヤしていた時期に彼女がデビューし、文字どおり雷が落ちたような衝撃を受けて。

その時に「終わった」とはっきり思いました。音楽はもうやめようと決心した瞬間でしたね。

寺田:そうだったんですか。初めて聞きました。

佐藤:何が言いたいかと言うと、15歳の時に選んだ道は今とは違ったけど、やりたいことは一緒だったんです。

今思えば、15歳の時に抱いていたぼんやりした野心をかなえる手段として、当時選んだのがたまたま音楽だっただけで、正直に言えば他の手段でもよかったんです。

ただ、そうは言っても長年やってきたわけだから、音楽で出したパフォーマンスよりももっと大きなことをしないと、自分に対して説明がつかないというか、単純にかっこ悪い。

そう思って、僕は24歳で音楽から「事業」に手段を変えて、自分の生き方に納得できるように人生を進めてきました。そんなケースもあるというのはぜひお伝えしたいですね。

寺田:学生たちに向けて、最後にメッセージをいただけますか?

佐藤:魅力的な同級生や先生と触れ合う中で、良い学びがたくさんあると思います。さらに神山では学校の範囲を超えて、おもしろいことをしている人たちとつながる機会も多いでしょうから、それを大切にしてほしいですね。

自分の目指す先にいる人でも、自分と全く違う人でもいい。おもしろい人たちと関わって刺激を受け、ネットワークをつくることは、学校の勉強以上に価値あることだと思います。

僕もまた一人の人間として、皆さんとフラットに接したいと思っています。お互いに刺激を与え合っていければいいですね。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影] 丸山剛由

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