【SONY】起業家精神を重んじるソニーとの共創で、グローバルレベルの人材・アイデアを育てる/スカラーシップパートナーインタビュー
まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。
神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。
企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付により、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。
神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
https://kamiyama.ac.jp/news/0309-01/
今回はそのパートナーの一社であるソニーグループから代表執行役 社長 COO 兼 CFO の十時裕樹さんをお招きし、神山まるごと高専理事長の寺田親弘との対談形式で同社がスカラーシップパートナーに参画した理由や十時さんご自身の学生時代のお話などを伺いました。
13年前のセールスでの名刺交換から繋がったご縁
寺田:本日はよろしくお願いします。スカラーシップパートナーへの参画に加えて、十時さんご自身にも起業家講師としても7月にお越しいただけることになっています。教育改革に取り組んでおられる探究学舎の宝槻泰伸さんとともに、異色の組み合わせでの講義をお願いしたいなと思っています。
はじめに少し近況をお伝えさせていただくと、ちょうど(対談の)一週間前に竣工式がありました。町民向けのお披露目をはじめ、パートナー各社、学生に向けたお披露目週間で、5000人の町に町民も含めて1週間でのべ1500人が来場し、大いに盛り上がりました。十時さんに昨年来ていただいた時には建物もまだ途中でしたが、いよいよ準備万端、始まるなという印象です。
十時:形になってきましたね。
寺田:はい。最初の学生は44名。男女半々で、北は北海道から南は沖縄まで。ロンドンの日本語学校から来てくれる子もいます。ご家庭の経済状況もさまざまで、趣旨にあるとおりの多様な人たちが入学してくれることになって、いいスタートが切れそうだという感触を掴んでいます。
十時:最初に寺田さんからお話を聞いて、ゼロから作るという発想とここまで持ってくる行動力がすごいなと思いました。日本には多種多様なステイクホルダーがいて、規制も多く、相当の熱意がないと新しいものは生まれません。私は30代で戦後はじめてとなる新設銀行を立ち上げましたが、当時もさまざまなハードルがあり、多くの方にお世話になりました。話を聞いて、そのことを思い出していました。
寺田:私自身も、ソニーさんとの関係においていろんなドラマがありました。最初のきっかけは13年前に吉田憲一郎 代表執行役 会長 CEOにSansanのセールスに伺って、名刺交換をさせていただいたこと。
それで、今回のスカラーシップパートナーを立ち上げるにあたって、ソニーさんしかいないんじゃないかと思い、メールを差し上げたところ、ご快諾いただき、十時さんをすぐに紹介いただきました。印象的だったのが、十時さん、お一人で現れたんですよね。部下や秘書など複数の方と来ることを想定していたので。
十時:そうでしたね。
寺田:プレゼンを聞いていただいて、淡々とした感じで「わかりました」と言われて。プレゼンを終えたエレベーターのなかで「あれ、これ、いけたんだよね・・・?」という話をしていました。
十時:迷いはなかったです。普段から決めたらあまり揺らがないんですよ。
若い世代がビジネスに触れられる環境をつくる
寺田:あらためて、どこに魅力を感じていただけたのでしょうか。
十時:まず、応援したいという思いがある。若い世代の方々が早くから起業したり、ビジネスマインドを持てる環境を用意することが重要だと考えています。挑戦するのは早い方がいい。歳をとって経験を重ねると、気軽に挑戦ができなくなることもありますよね。普通では難しいことでも真剣にチャレンジしてみよう、というマインドセット自体が若い世代の特権だとも思います。
それから、高専というのもポイントでした。テクノロジーを学ぶという点で私たちも高専に馴染みがありますし、5年間という期間で集中して学べるのもいい。一線で活躍する方々が講師として参加することにも大きな意義がある。壮大な実験だなと思いました。
寺田:そんな実験に、テクノロジーとデザイン、ものづくりという観点からも日本のトップ企業でもあるソニーさんが参加してくださるのは本当にありがたいことです。この学校でやろうとしていることを体現している、他にはない企業ですから。ソニーさんのサポートがあれば、その先にもつながるという確信が私たちにもありました。
十時:ある程度会社の規模感も大きいので、多様な社員と対話をしたい、意見を聞きたいとご要望はサポートできると思っています。今回はデザイン部門から講師を何人か派遣しますし、グローバルにビジネスを展開している観点からも、何等かの機会を提供できないかも少し考えています。
寺田:最初にお目にかかった時にも話題になりましたが、ソニーさんは、起業家向けのインターンや、会社としてもスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムもあり、具体的な取り組みもされています。そういう点でも、シンクロできたのかなとは感じています。
十時:やはり若いときに、自分ごととしてビジネスを捉えられる人のポテンシャルは大きいです。我々としては将来の経営者を育てるという意味もありますが、それによって本人の引き出しを増やすことにもなる。寺田さんもそうだと思いますが、起業してから引き出しが一気に増えると考えています。
寺田:それは、そうですね。
十時:そういう実感がある人を、できるだけ多く増やしたいということは常々考えています。
起業家であり、大企業の社長でもあること
寺田:昨年神山にも来ていただいたのですが、十時さんのフットワークの軽さもすごいなと思います。神山の印象はいかがでしたか。想像してたより田舎でしょう(笑)。
十時:綺麗な場所だなと。でも、私も田舎の出身だったので、それほどサプライズではありませんでした。現地で詳しいお話を伺いましたが、いくつもの偶然が重なったということが面白いですね。
寺田:本当に偶然ですね。あとから学校をつくるための要素を分析的に抽出しているのですが、やっぱり説明できない偶然が重なっています。あんな場所でよくこんなことができたなということを、竣工式帰りのタクシーで考えていたところです(笑)。
そういえば、現地で十時さんとランチをしているときに「今の時代なら起業しているな」とお話しされていたことがすごく印象に残っています。起業していくことを応援したいけれど、優秀な人には会社に残ってほしい。経営者としてそんな矛盾した感覚を感じることはありませんか。
十時:選ばれる会社になることが必要ですよね。起業家がより大きなフィールドで挑戦したいというときに思い出してもらえるような会社でありたいと思っています。会社の規模が大きいと、自分一人ではどうにも変えられない、やりたいことがやれないと思われることもあるわけですが、そうではないということを示していく必要があるわけです。
若いうちに選択肢があることを知ることのメリット
寺田:少し具体的な話をすると、これから奨学生には一年目にスカラーシップパートナーの企業への理解を深めていただき、実際のインターンも含めて5年目にはサービスを共創してほしいと思っています。そうやって、学問に加えて、実学を志しているわけです。
将来的には学生のつくったアイデアが実際のプロダクトになったり、企業のなかになんらかの影響を与えたりするといいなと思います。そういう点でも、ソニーさんの懐の深さというか、多様な事業を持っていることの意味は大きいと感じています。
十時:成功例が出てくると、まわりに刺激されて、自分にもできると思える人が増えるはずですし、そういう場所になるといいと思います。
寺田:ちなみに、十時さんご自身は15歳の時にどんな学生でしたか?
十時:私は中学・高校を山口県で過ごしました。高校の時にはラグビーをやっていて、あまり勉強ができる学生ではなかった。大学受験は推薦を狙っていたのですが、他の同級生に決まってしまい、高校3年生の6月になって大慌てで勉強することになりました。
寺田:そうだったんですか。
十時:上京して、アルバイトの経験もして、いろいろな社会の仕組みを知りました。そして、自分は社会に出るまでほとんど将来のことを考えていなかったことを痛感しました。
卒業後ソニーに入って、まわりは優秀な人ばかりで、自分は英語も得意ではなく。落ちこぼれないように必死でした。一方で、あらゆることが新鮮に思えて、とても刺激を受けた部分もありました。
寺田:そんな十時さんが、それでも挑戦は早い方がいいと思われるのはどうしてですか。
十時:私の場合は偶然も重なり、意図していなかったこともあります。もう一度やり直すならもっと要領よくできたのに、と思うこともたくさんあります。それを選ぶかは本人次第ですが、若いときからあらゆる機会を知ることができるというのは大切だと思います。
テクノロジーの進化と未来をどう見ているのか?
寺田:ちょっと話は逸れるのですが、最近とあるカンファレンスに参加しまして、ほとんどがChatGPT(生成系AI)に関する話題でした。僕自身DXの会社をやっているので、その影響についてはこの数ヶ月ウォッチしていますが、教育という観点でも大きな影響がありそうだなと思います。十時さんとしては最近の世の中の流れをどう見ていますか。
十時:過去を振り返ると、新しいテクノロジーが出てきたときには毎回そういう議論が出ています。新しいテクノロジーが生まれて、新しいイノベーションが生まれてきた部分もあると思います。
寺田:言語コミュニケーションがあのレベルになってくると、一方の非言語コミュニケーションが重要になってくるとも思うんです。もともと価値を感じてはいましたが、神山というオフラインの場所にはあらためて価値があるんじゃないかということも感じています。チャットAIによって知識の相対的なバリューが減ると考えると、問いを立てること、つまりは起業家精神がますます大事になってくるとも思います。
十時:社会全体で取り組むべきことも、地球全体のことになってきますよね。テクノロジーを会社の発展に生かすだけではなく、テクノロジーをもっと大きな課題に使っていけるようにしていく必要があると思います。
「純度の高い好奇心を失わないでほしい」
寺田:では最後に、未来の奨学生に向けてコメントをいただけますでしょうか。
十時:「純度の高い好奇心を失わないでほしい」と思います。子供のときには一番好奇心がありますが、大人になるにつれて先入観を持ってしまう。そうなると、本当は想像力が及ばないのに、想像して勝手に決めつけてしまうようになる。だから、今の皆さんが持っている高揚感や、好奇心を失わないでほしいです。
寺田:自分もそうなっているなあと思ってしまうのですが、どうしたらいいんでしょうね。
十時:やはり、甘んじないことがとても大事ではないでしょうか。
寺田:なるほど。もう一つ、起業家講師としても来ていただけるわけですが、学生たちにどんなことを伝えようと思いますか。
十時:私が伝えることもさりながら、私の方が学びたいなと思います。
寺田:十時さん自身の好奇心ですね。
十時:そう。自分自身の好奇心として、学生さんができるだけたくさん話してくれるといいなと思います。
寺田:本日はどうもありがとうございました。