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〈モノコト物語〉神山町に根ざしたユニークなアルバイト『さあ・くる神山ラボ』で、「モノをつくる力」を実践。

モノを作る力でコトを起こす、神山まるごと高専生のリアルな挑戦のストーリーに迫る企画「モノコト物語」。

神山まるごと高専では、町内の飲食店やコンビニ、宿などで多くの学生がアルバイトをしています。その中には神山町ならではの一風変わった働き方をしている学生も。モノコト物語第3話の今回は、『さあ・くる神山ラボ』で町民向け情報発信メディアの制作・運営をアルバイトでしている鈴木カヲルと見代梨々香です。町民の方との縁で巡り会った働き先では「カヲルン」「みよちゃん」と親しまれています。高専で学んだ「モノをつくる力」を発揮しながら神山ライフを楽しむ二人に話を聞いてきました。

左から鈴木カヲル(以下、カヲル)と見代 梨々香(以下、みよ)

授業で学んだスキルを生かし、町民向けに情報を作り届ける

ーまずは、二人のアルバイト先である『さあ・くる神山ラボ(以下、神山ラボ)』について教えてください。

カヲル:『神山ラボ』は、神山町に暮らすご年配の方向けにタブレットやインターネットの使い方の相談窓口や講習会を担当するほか、町民向けの情報を発信するYouTube番組「かみやまチャンネル」の制作もしています。

ーそこで二人はどんなことをしているのですか?

みよ:二人が共通しているのは、かみやまチャンネルの企画や出演です。それに加えて私はチラシや腕章を作っています。授業でグラフィックデザインの基礎を学んで、実践的なデザインをしてみたかったんです。他にも高専では、木炭デッサン、油絵などを習い、デザイン力の土台を固めていったように思います。

 『神山ラボ』にはIllustrator歴10年以上の大先輩がいて、実用的な機能や効果的なデザイン方法を教えていただいています。教えていただいたことは授業にも活かされています。

カヲル:私は「かみやまチャンネル」の編集をしています。動画編集は未経験でしたが、スタッフの方に教えてもらいながらできるようになってきました。

もう一つ、神山町の今を伝えるウェブサイト「in Kamiyama」の記事も書いています。原稿作成では「文章表現」の授業が活きていると感じています。この授業では、「伝えると伝わるは違う」「人は自分のフレームで世界を見ている」といった前提に沿って、様々なテーマの文章を書くんです。例えば「四季の挨拶を考える」「自分が一番大切にしているものについて」など。漠然と情報を並べるのではなく「伝わる記事」にするための意図を持って文章を書けるようになったと思います。 

神山町の可能性に魅了され、入学を決意

ー高専で学んだことの実践の場にもなっているんですね。そもそも二人はどういうきっかけで神山まるごと高専に入ったのですか?

みよ:中学生の頃は、自分が何をしたいのかも曖昧でぼーっとしていることがよくありました。高校では刺激的な毎日を過ごしたいと思うようになりました。そう思っていたときに、親が「こんな学校があるよ」と勧めてくれて。ここなら自分が思い描く毎日が過ごせそうだと思って進学を決めました。

カヲル:神山まるごと高専も魅力的だったのですが、私は「神山町」そのものに魅力を感じて入学を決めました。中3の夏に、神山まるごと高専のイベントに参加したときに神山町に出会い、まちのことを調べる中で、神山町の先進的な地域創生戦略を知りました。

 私の出身地の山形県でも人口がどんどん流出していることに切なさを感じていた時期でもありました。闇雲に人口を増やすのではなく、人口減少のペースを緩めながら今住んでいる人たちの暮らしを豊かにして、町を将来につなごうとする神山町の姿勢が魅力的だなと思って。もっと神山町のことを知り、地域の可能性に触れたいと思って飛び込んできました。

アルバイトを通して、神山の知らない姿に出会う

ーカヲルさんは神山町の取り組みに興味があったんですね。では、どういうきっかけで『神山ラボ』に出会ったのか教えてください。

カヲル:昨年の秋に神社でお祭りがあり、みよを連れて遊びに行ったんです。お祭りの帰りに急に雨が降ってきて。でも傘を持ってきてなかったから濡れながら歩いていたんです。そしたら、町民の方が「雨宿りして、うどん食べていかない?」と声をかけてくれたんです。

みよ:世間話をするなかで、「何か神山町でやりたいことある?」と聞かれて、二人ともバイトを探していたことを伝えたら『神山ラボ』を紹介してもらえたんです。

ー偶然の出会いだったんですね。

カヲル:まず始めに「かみやまチャンネル」に出てみない?と誘ってもらって、動画に出演することから始まりました。

「撮影では、生まれて初めて蛍を見にいったり、自分では遠くて行けなかった『神通滝』を見にいったりと、自分ではできない体験をさせてもらっています」とみよ

怖がらずにもっと出ていいんだと感じられた

ーカヲルちゃんは町に積極的に出ているんですね。

カヲル:私は神山町に住みたい!という思いでこの町に住ませてもらっているので、せっかくならいろんな場所に行って、町中の人と出会いたいなと思っています。

ー知らない土地に出ていくって、緊張しませんか?

カヲル:はじめは「よそ者の自分がまちのお祭りや行事に行ったら、迷惑に思われるんじゃないか」って不安でした。昨年の7月に「下分七夕飾り」の準備に高専生を誘ってくださったんです。そこでお手伝いさせてもらったら皆さんが「高専生が来てくれて助かった!明るくなったわ〜!」と声をかけてくださって。歓迎してくださったことがとても嬉しかったし、神山町のことがもっと好きになりました。

ー確かに、神山にはたくさんの人がいつも来ますし、受け入れる姿勢があるように思います。

カヲル:今までは自分が一方的に怖がっていただけなんだと気づきました。それからは、教えてもらった町の行事にはほぼすべて行くようになりましたね。また、神山町はいろんな人が出入りしている分、みんなが自然体でやりたいことをしているように感じます。その姿を見て「自分は他の人と違ってもいいのだな」と思えるようになったことも大きな学びの一つです。

みよ:神山町に来て、散歩してたら町民の方が「おはよう」など挨拶してくださることにびっくりしました。地元では体験したことがなくて。最近では、通りかかった人を見たら自分から声をかけるのが当たり前になって。町の雰囲気にすっかり馴染んできたと感じます。

「求められているもの」と「やりたいこと」のバランス

ー話を『神山ラボ』に戻しますね。アルバイトをしてみてどんなことが学びになりましたか?

カヲル:自分が「やりたい!」って思うことの大切さです。それまでは、何か作るときは求められるものを100%で出したいと思っていました。学校の課題と同じように、この人はこれくらいのレベルを求めているから、これくらいのレベルを目指そうと、課題に対して応える形で何かを作っていたように思います。そこには自分の「やりたいか」の意思は関係なくて。

でも、『神山ラボ』のスタッフさんたちは私たちを尊重してくださって「やりたいことをやったらいいよ」と言ってくださるんです。そんな良い環境なのに、求められていることばかりに意識すると、せっかくやりたいようにというスタッフさんの思いに対して失礼なんじゃないかと思うようになって。

 「この記事を書きたい」「このことを伝えたい」って自分で決めさせてくれるので、その分自分の熱量も加わります。その熱量は読者にもきっと伝わる。だから、やりたいことを発信して、求められることと、やりたいことが上手く重なるバランスが取れるようになったと思います。

みよ:実践の重要性を感じました。授業で学ぶ知識も大切だけど、やっぱり実際にやってみることで、技術が本当に身についていくんだなと。今の環境は、そうした実践の機会が豊富で、自分のスキルがどんどん磨かれていくのを実感しています。とても恵まれた場所で成長できているなと思います。

カヲル:ラボスタッフの皆さんのコミュニケーションの取り方も学びになります。「高校生だからこれくらいかな」と手加減するでもなく「高校生なのにすごい!」と過剰に評価することもない。とてもフラットに対話してくださるのがありがたいです。

みよ:本当に柔軟だよね。心地よい自分の居場所を見つけられたと思っています。学校でも家でもない、第三の居場所って感じです!

ー良いアルバイト先に出会えましたね!

カヲル・みよ:『神山ラボ』のバイトはずっと続けたいです!クビにならない限りは(笑)

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