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「教育が時代を動かす。」PARTY伊藤直樹が考える”人間の未来を変えるカリキュラム”に迫る。

まるごとnote(神山まるごと高専(仮称)noteアカウント)編集チームです。

「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

今回お話をお伺いするのは、カリキュラムディレクターに就任した、クリエイティブ集団PARTY代表の 伊藤直樹さんです。伊藤さんは『WIRED』日本版のクリエイティブディレクターとしても、デジタル・クリエイティブの領域で活躍されています。また、京都芸術大学やデジタルハリウッド大学で教鞭をとるなど、“教育者としての一面”も持っています。

そんな伊藤さんが考案する、神山まるごと高専のカリキュラムとは一体どのようなものなのでしょうか。

15歳か16歳で人生の岐路に立たされる、現行の教育システムへの課題感。

ーそもそも、伊藤さんはなぜ神山まるごと高専に関わることになったのですか?

実は、最初はこの高専の存在をまったく知らなくて、4ヶ月前ぐらいに、Food Hub Projectの真鍋さんから、「神山に高専ができるんですよ」とぽろっと言われて、ホームページを見にいって知ったんですよ。
真鍋さんとは過去に、一緒に食のプロジェクトをやってから10年来の仲で、彼が神山で食堂やパン屋さんをやっているんですけど、そこの食パンがめちゃくちゃおいしくて、その話しで盛り上がっていたから、「その神山で高専ができるんだあ」くらいの立ち話の延長だったんです。
その時はまだ理事長の寺田さんとも直接は面識がなかったですしね。

―寺田さんからはどのようなお声がけがあったのですか?

ある日、共通の知人を通じて寺田さんからFacebookのメッセンジャーで連絡がありました。
神山まるごと高専は、大きく分けてエンジニアリングとデザインとアントレプレナーシップ(※)、この3つの要素をすべて学べる稀有な学校なんですけど、寺田さん、クリエイティブディレクターの山川さんは見てのとおりのシリアルアントレプレナー(起業家)、大蔵さんはZOZOの元CTOを務めたエンジニアで高専出身。で、残るデザインについての相談に乗ってほしいと言われたところから始まりました。

過去に「BaPA(バパ)」というデザインとプログラミングの学校をうちのPARTYの中村洋基くんとクリエイティブチームのバスキュールの朴さんと開校したこともあったし、PARTY自身もまさにエンジニアリングとデザインとアントレプレナーシップをひとつになったようなことをやっているんです。
デザイナー、プログラマー、エンジニアがたくさんいて、事業会社がいくつか運営しています。まさに、「デザイン」「テクノロジー」「アントレプレナーシップ」の三位一体。この高専の目指す姿は、自分でも違和感がなく、PARTYが求めている考え方そのものだと思ったんです。

寺田さんと話していくうちに、「もういろいろ詳しそうなんで、カリキュラムディレクターになってくれませんか。」という話になりました。

※アントレプレナーシップとは
アントレプレナーは、「事業を起こす人」を意味し、フランス語の「Entrepreneur」が語源です。
アントレプレナーに「マインド」を意味するシップがついた「アントレプレナーシップ」とは、企業家(起業家)精神を意味します。そのため、ゼロから事業を起こそうとする精神を持つことや、将来的に起業したいと考えることを、アントレプレナーシップと呼びます。

―寺田さんからメッセージ頂いてから実際にお会いしたときの印象はどうでしたか。

「いきなりそこまで言いますか」と最初は戸惑いました。二つ返事で「はい!」とはすぐ言えなくて。

それで、二人でご飯食べたんですよ、海の方で。寺田さんがこちらの方に来てくれて、二人で休日にデートをして(笑)ロングランチを食べて。そして徐々にお互いをわかってきたんです。

いまPARTYというチームには、フリーランスの人や自分の会社を持ってる人、正社員といろいろな契約形態があるんですけど、自分は教育者でもあるので、「これからも自分たちが必要とするような人材が、わんさか世の中に誕生してくれるような教育システムって何だろうか」と、ちょうど考えていたところだったんです。

寺田さんと話していて、「神山まるごと高専という学校は、自分が理想としている“これから必要とされる人材”を育成できるのではないか”」とワクワクしたし、ちょっと身震いしたんですよ。
本当にこれからの社会に必要とされている学校ができるかもしれない、と。

これまで大学教授としてたくさんの学生や社会人を教えてきた経験からも、どんな内容の授業ならやる気になるとか、ついてこれそうか、というものが何となくわかっているつもりなので、そういう意味で「カリキュラムをつくる立場だったらできるかもしれない」と寺田さんにお伝えして、参画することになりました。


―京都芸術大学教授とデジタルハリウッド大学の客員教授でもある伊藤さんが感じる、現在の教育への課題は何だと思いますか。

BAUHAUS(バウハウス)という1919年のドイツ、当時ワイマール共和国の時代に設立された美術学校があるんですけど。その頃というのは、ご存知のように第一次世界大戦と第二次世界大戦の間であまりいい時期でないんですよね。そんな中で、立ち上がった人たちがいて。その当時にはなかった「数多ある芸術を統合的に教える学校」という新しい教育システムを立ち上げたんです。

この学校自体は短命に終わりましたが、それを作った先生たちやバウハウスに影響を受けたデザイナーたちの作品は、のちのモダンデザインの基礎になっていたりするんです。
”教育が時代を動かす”ということを、バウハウスは証明しました。

神山まるごと高専は、美大と工業大学とMBAが合体したような学校で、本当に例のない学校になると思います。そして、バウハウスのように“教育が時代を動かす”ということを実現したいんです。

現在、芸術系の高校、高専、普通科の高校がありますが、多くの高校生は普通科の高校に通って、高校一年生のうちに「文系」か「理系」かを選択する。そうなると、「理系」のほとんどの子は、美術の授業を選ばないですよね。その段階で美術を捨ててしまうんです。また、「文系」の子たちの多くは「数Ⅲ」をやらなくなってしまう。
限られた時間と選択肢の中で、何かを選択し、その過程で捨てる科目がある。

こんな風に15歳や16歳という子たちが人生の大きな岐路に立たされるわけです。これがいまの教育システムです。

いま社会の現場で必要とされているのは、やっぱり「デザインとプログラミングが両方出来るようになる学び方」なんですよね。さらに、この高専ではアントレプレーナーシップも学べてしまうわけです。

この高専の最初の卒業生が出るのは2028年です。その頃には、ひとりの人間が所有するIoTの数は飛躍的に増えているでしょう。仮に、この高専の卒業生がIoTをつくって起業したいとしましょう。もしCGが触れて、プロダクトデザインもできて、電子回路もわかって、プログラミングで制御できる人がいたら、プロトタイプ(試作品)がひとりで作れちゃうわけですよ。おまけに投資家へのプレゼンまで上手だったら、完璧です。
だからこそ、デザインもエンジニアリングもわかって起業家精神のある人はこれから相当強いわけです。


だから、15歳から文系・理系の選択をする前に、この高専を選ぶというひとつの選択肢があってもいいんじゃないかと思ってます。だって、美大と工業大学とMBAが混ざったような学校で、ぜんぶ学べるわけですから。

いったん5年間、20歳までじっくり学んでみてから人生の大きな選択をしても良いと思います。

多様な選択肢をもたらす、三位一体のカリキュラム「神山サークル」とは

ー神山まるごと高専の具体的なカリキュラムが公開されるのは、今回の記事が初めてですね!現在作成しているカリキュラムについて、詳しく教えてください。

神山サークルと学習内容_page-0002

カリキュラムの全体像は、【モノをつくる力】社会と関わる力の2つで構成されています。

まず、【モノをつくる力】では、4つの要素を育てたいと思っています。
絵(デザイン)」や「プログラミング」に強くなるだけでなく、「言葉」や「数字」にも強くなることを目指しています。

まず絵(デザイン)の授業では、デッサンの練習もやりますし、タイポグラフィの勉強もしますし、プロダクトデザインや、UI/UXデザイン、ジェネラティブデザインといったアルゴリズムを利用したデザイン手法などについても幅広く学びます。仮にそんなにデッサンやデザインが上手くならなかったとしても、頭の中に自由自在にイメージが描けるようになってほしいと思っています。頭に「思い描ける」ことって、本当に重要ですからね。

さらに、プログラミングの授業では、一通りの基本的なプログラミング言語を学べるように考えています。スマートフォンアプリを動かすためのフロントエンドの言語やインターネット上でサーバー側から処理をおこなうサーバーサイドの言語まで学べます。また、AIの機械学習や画像解析も出来るようになるでしょう。アルゴリズムの授業では、神山の自然のなかで、自然界に存在するアルゴリズムについて考えてみようと思っています。アリや鳥の群れ、葉脈やサボテンの形、これらはすべて自然界のアルゴリズムによるものです。

その一方で、言葉の授業も重要です。言葉に強くなるために、歴史や国語、そして哲学や心理学を学んでいきます。歴史は、世界史や日本史に加え、アート史、デザイン史、テクノロジー史もやります。未来の予測が困難な時代において、歴史にアイデアの手がかりを見つけることはとても重要なことです。
また、「SFプロトタイピング」という変わった授業を想定しています。
SF作家と一緒に「良い未来」と「悪い未来」をテクノロジーや科学起点で物語として想像してみる授業です。そこから自分が実現したいアイデアを今度は未来起点に想像してみます。歴史の授業では過去へ、SFプロトタイピングの授業では未来へ、アイデアを探す旅をします。

言葉に強くなると「モノをつくる力」は飛躍的に伸びます。アイデアは基本的に言葉で考えますから。当たり前ですが、そのアイデアをプレゼンテーションするにも言葉を使いますし。

そして数字の授業とは、いわゆる自然科学に該当するものです。
自然で起こっていること、社会で起こっている現象を数字として理解しようとすること。
たとえば、IoTは簡単に言ってしまうと、環境や身体、都市の動態などをセンシングして数値化するデバイスです。その数値をインプットして何かをアウトプットするのがIoTです。

たとえば、「体育とサイエンス」という授業を予定しています。心拍数のとれるデバイスをつけて400mを走ってみて、心拍数がどう変化したか計測してみる。サッカーでもGPSのデバイスをつけて、自分がどう動いたのか軌跡を追っていくなど、スポーツを数字として捉えるんです。

このようにただ”一般的な科目としての体育”はなく、”「モノをつくる力」を養うための体育”をするのが、まるごと高専の考え方なんです。

さらに、数字に強いと何ができるかというと、例えば精緻なスケジュールを立てることができます。お金の計算にも強くなります。つまり、事業計画がつくれるようになります。
このように、「デザイン」と「テクノロジー」を学んで社会で役立つ実践的な【モノをつくる力】を身につけるためには、「言葉」「数字」「絵」「プログラミング」の4つの領域を総合的に学ぶ必要があるんです。

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自立した個人が他者と協力してモノをつくる時代に。

―【社会と関わる力】についても教えてください。

【社会と関わる力】にも大きく3つの要素があります。
人と一緒につくるコラボレーションスキル、ネイバーフッドスキルと呼んでいる地域社会で隣人と生きる力、コトを起こすアントレプレナーシップが含まれています。

アメリカではすでに労働人口の半数近くがフリーランスになっていて、いずれ日本もそうなっていくでしょう。そうした社会では、自立した個人でありながら他者と協力してモノを作ることができるコラボレーションスキルが重要になるんです。他者に影響を与え、他者を助けることができる能力です。

また、どんな困難や苦境からも立ち直り、回復する能力であるレジリエンスも求められるでしょう。チームで揉めた時や、事業がうまくいかなくなった時。またはプロトタイプ(試作品)が動かなくなった時など、失敗は毎日といって言いほど起こる。そんな時に、いかに不屈の精神で再び立ち上がれるのか。
つまり、人生に失敗や困難があるのが当たり前であることを知り、それらを乗り越えるための具体的な方法を学べるようにします。
また、起業や経営のやり方についてはもちろん、「コトを起こす」ためのリーダーシップについても学べるようにします。
たとえば「体育と自然」という授業では、神山の自然のなかでキャンプや山登りをして、サバイバビリティとリーダーシップを身につけてもらいます。

神山まるごと高専の“まるごと”というのは、神山の町や自然のすべてがこの学校のキャンパスである、ということを意味しています。


ーバリエーションが豊富ですね…!また、「隣人と生きる力」とは、どういうことでしょうか?

今後はリモートワークやフリーランスとしての働き方がいっそう増えて、都市ではなく地方で暮らしていく人が一層多くなるはずです。だから、地域経済とは何かを学びます。神山の町が具体的にどういった経済で回っているのかを知ります。また、日本の各地域では地産地消のためのシェアリングエコノミーがさらに成長します。スキルやモノが地域のなかでより共有されるようになるでしょう。だから、学生たちには、神山の町に出て、自分たちの足で調べ、どんなスキルやモノが具体的に共有されるようになるのかを考えてほしいと思います。その経験を通じて、「隣人と生きる力」を身につけてほしいと思います。


授業のバリエーションが豊富、という部分ですけど、安心してください。
何でもできる天才ばかりを育てる教育ではありませんから。(笑)
人には得意不得意が必ずあります。「デザイン」「テクノロジー」「アントレプレナーシップ」全部ができてしまったら、それはレオナルド・ダ・ヴィンチですからね(笑)。天才を創るという教育ではないんです。

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日本に新しい価値を生み出せる人材を

―今は大変ご活躍されている伊藤さんですが、中高生の頃はどのような学生だったのですか?

先ほど話したカリキュラム作成の元となる原体験は、中高生の頃の反省からなんです。

4歳から中学生まで絵を習っていたのですが、部活やリトルリーグにも入っていたりとどんどんキャパオーバーしてしまって。土日は部活で全部とられ、けがが増えれば気持ちが落ちて絵画に集中できない。当時の自分では収拾がつかなくなって、野球はその時に辞めてしまったんです。部活でのめりこむことは素晴らしいけれど、その中で色んなものを捨てていかないといけない場面がたくさんあった。
どの中高生も、何かを捨てて選んでいくという人生の選択を迫られていると思うんです。
子どもの頃から、少しずつ選択肢を狭めていることは、大人になって初めて気付くことってあるんです。
だから、神山まるごと高専では、デザイン、エンジニアリング、アントレプレーシップを中心に幅広い分野を学んでもらい、卒業後に本人が人生の選択をしていけるようにしたいと思っているんです。

ー伊藤さんが参画されたことで、学生の学びは一層深まりそうですね。最後に、伊藤さんからメッセージをお願いします。

現在の想定では、卒業生の進路は、4割が起業、3割が大学への編入や海外留学、残りの3割が就職です。4割が起業というのは強気な目標ですが、上場を目指したスケール前提の起業だけでなく、アーティストや建築家として起業する、農業法人を立てる、フリーランスとしていきなり独立するなど、多種多様な起業の形があっても良いと思っています。我々の育てたい学生像というのは「モノをつくる力で、コトを起こす人」ですから。

あと、この学校に興味を持ってくれるかもしれない学生さんや親御さんに伝えたいメッセージとしては、もしこの学校で学ぶことになったとして、何か困ったことがあった時に、けっして「ひとりで悩まないでほしい。」ということです。
学校の中では成績が伸びなくて苦戦する子、人間関係で悩んだりする子も出てくるでしょう。15~20歳の頃は、将来が想像できないことで恐怖を感じやすいし、少しずつ社会が見えてきたからこそ勇気が出なかったり、不安定な時期でもあります。

だから、わたしたちは学生さんが気軽に相談できる関係でありたいと思います。大学で教えていても、制作のことや就職、ありとあらゆる相談がくるけれど、授業外でいかに寄り添ってあげられるかが重要で、教育はそこに醍醐味がある、と信じています。
ひとりで悩まずに、大人をうまく利用していってほしいし、スポンジのように吸収してどんどん成長していってほしいし、その仕組みも作っていきます。例えば、メンターに勉強や寮生活、人間関係のことを相談できる制度を設けて、学生が安心して学べる環境作りにも関わる予定です。

この学校で【モノをつくる力】【社会と関わる力】を身につけることができれば卒業する頃には、起業家、進学、就職、フリーランスなど、あらゆる選択肢から自分の将来を選べるだけのスキルが身についていると思います。

最後に、今日話したカリキュラムの内容はまだ構想段階ですから、
まだまだ登らければいけない山はいくつもあると思ってます。
みんなで、設立に向けて頑張りたいと思います。

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[取材構成編集・文] 水玉綾、佐藤史紹

※設置構想中のため、今後内容変更の可能性があります。

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