Sansan CEO寺田親弘 夢は「未来のシリコンバレー」。2度目の創業への覚悟
まるごとnote(神山まるごと高専noteアカウント)編集チームです。
社会に変化を生む起業家精神を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。
今回お話をお伺いするのは、神山まるごと高専の理事長に就任する、クラウド名刺管理サービスを提供するSansan株式会社の代表取締役社長 / CEO 寺田 親弘さんです。
2度目の創業の気概で、Sansanと並行して神山まるごと高専のプロジェクトに励む寺田さん。これまでメディアであまり語られることのなかった、少年時代や価値観に迫りながら、神山まるごと高専への覚悟を聞きました。
人間の意志が非連続なイノベーションを生む
ー寺田さんは、元々神山まるごと高専にはアイディアと出資をする立場であって、理事長になるつもりはなかったと伺っています。理事長就任を決断され、実際に進めるなかで、今はどんな心境ですか。
理事長は会社でいうCEOという立場に近いし、フルコミットして担う立場だと思っています。Sansanも変わらず本当に毎日、真剣にやっているから、理事長になると決めてからも、葛藤が無いことはないです。
Sansanと並行して学校作りにコミットする方法はすごく考えたし、役員とも話しましたが、考える内にSansanと神山まるごと高専に”and(共通すること)”がとれる部分があると感じた。上場企業として、社会的なことを行うのは今のSansanにとっても意味があるし、会社だからこそ力になれることがあると思ってるんですよ。
仕事量はこれまでの倍くらいになったけど、トータルの熱量が上がった結果、集中力はむしろ上がっていて。
この2カ月、寄付を募る営業に力を入れているんだけど、初めての経験の連続。僕自身成長できているし、Sansanにも良い影響を出せていると思う。未知のことを考えて、できるかどうか分からないけど動き回るような日々を送っています。
―寺田さんがそこまで真剣になれる起点は何ですか?
2つあると思っていて、「本当にすごいものができるかも」という期待感と、「それを僕がやらなければならない」という危機感ですね。この2つが存在していることで成長にもつながるし、コミットしなければと、僕を突き動かすんだと思います。
―神山まるごと高専のメンバーと関わることでの学びはありますか?
・・僕ね、大蔵さん、咲さん、大南さんたちや関わるメンバーみんなそうなんですけど、誰かが真剣に何かと向き合っているところを見ると、感極まっちゃうんです(笑)
感極まる瞬間とは、”交じりっ気のない本気”に出会う瞬間のことで、例えばラグビーワールドカップなどもそうだけど、間違いなく真剣にやっているアスリートたちを見て、彼らの背景を想像しながら、気が狂ったようなぶつかり合いをして勝ったというシーンや表情を見ると泣けてくる。それ以外でも、結婚式のお父さんの表情とか、M-1の舞台裏とかね。
自分が言い出したことだけれど、「高専」というテーマに、数多くの人が真剣に取り組んでいる様子を見ると、刺激をもらいますし気合が入ります。
―「泣ける」というのは寺田さんのどんな要素が反応するのでしょう?
「僕も懸命に生きたい」という感情なんでしょうね。そういう瞬間はやっぱり美しいし、うらやましいし、カッコいいと感じる。
「懸命に生きている」とか「真摯に向き合う」という、なんだろう、生身な感じがくると、全身からぶわぁっと震えるものがある。こんな日々を、この素晴らしいメンバーたちと過ごしている。
年齢もバックグラウンドも違うけれど、いろんなコミュニケーションや場面から「この人、命かけているんだな」と思えるんです。
―寺田さんにとって「教育」とは?
「教育全体」というものを自分が語れる立場にないし、なんだか嘘っぽくなってしまう。
ただ僕が思うのは「価値を生み出す、創造する」ことは大事だと思っていて、一人ひとりが価値を生むことの手助けや、その力を育むようなものが”教育”なんだと思います。価値って「お金」とかそういうことではなく、「”人間の意志”のある非連続なもの」だと思っていて、世の中全体の流れや慣性として持っているダイナミズムだけでは生まれないものだと思うんです。
ー神山まるごと高専は「2度目の創業」の心意気で進めていると聞いていますが、名刺をクラウド化して業界にイノベーションをもたらしたSansanと、神山まるごと高専の創業には、寺田さんの中ではどのような共通項があるのでしょうか?
僕はやっぱり非連続なイノベーションに、ワクワクするんですよね。その人がいなかったら起きなかった変化とでも言うような。
Sansanを例にしても、僕らが名刺のクラウド化に取り組まなかったら、代わりの人がやっていたとは思わない。人の意志が一定の非連続性を起こしていると思うんですよ。
「人は1年でできることを過大評価し、10年できることを過少評価する」という言葉がありますが、本当にそうだなと思う。たったひとりの人間でも、10年かけてやることで非連続なものが生まれてくる。
神山町も、NPO法人グリーンバレーの大南さんが、20年以上仲間と共に町作りに力を入れてきた結果、今の姿が生まれた。
神山まるごと高専だって、少なくとも僕らがやろうと思わなかったら生まれなかったもの。日本で初めての大学法人などに属さない独立した高専で、しかも高専の新設は20年ぶり。
今回の学校も、価値を生むと思っているんです。
人間の意志がある非連続のものが、これまでも人類を進化させてきたし、今身の回りにある当たり前もそういうものから生まれてきた。それが自分をワクワクさせるんです。
意外な学生時代の顔。目的を問い、志が磨かれた
ー寺田さんは小学生の頃から、将来起業を志していたそうですが、今のような志や、リーダーシップはいつ芽生えたのでしょうか。
学生時代は優等生ではなかったですね(笑)。やりたくないことにはやりたくないと言っていたし、それで先生方には目をつけられていました。
僕は目的志向が強くて、なんとなく世の中にある空気、「これをやったほうがいい」と言われていることに対して、なんのためにやったほうがよいのか納得したいという思いが強かった。
今でも覚えているのが、国語の授業。よくある「この主人公は何を考えているでしょうか?」という設問に対して、「そんなの分かるわけない」と先生に食ってかかったことがあって。とある先生が「これは、主人公の気持ちをもっとも、らしく説明できるかどうかの時間だ」と解説してくれて、やっと納得できた。目的志向だから、ちゃんと目的を解説してくれる人がいたら素直に取り組めたんです。
クラスのみんなを巻き込んで、何か楽しいことをするのも得意だったかな。ちょっと遊びにのめり込みすぎて、クラス全員呼び出されて怒られたこともありました(笑)。当時、「人を巻き込む影響力がある」という自覚がなくて。クラスの友達が同じことをしていても、なぜか先生から注意されるのは僕だったので、大人からは影響力があると思われていたのかも。
ー目的志向が強く、みんなを巻き込む寺田少年のベクトルが、「社会のため」に向いた転換点はどこにあったのでしょう。
Sansan起業当初ですら、社会の役に立とうという気持ちだけでなく、どろどろした欲望や野心を持って、「一発かましてやる」みたいな気概だったと思う。
でも段々と続けていくなかで、社会にインパクトを与えられることに、より価値を感じるようになっていきました。
もう少し細かくいうと、真摯に仕事と向き合うと、ぼんやり捉えていた野心の中に、社会に貢献したい気持ちを抱いていたことに気がついた。自ずとエゴのようなものは削ぎ落されて、洗練されていき、志のようなものだけが残っていったかな。
創業してからはずっと「究極的には何が大事か」と目的を問い続けてきたのもあるかもしれません。例えば、「世界一位になりたいのか?」という問いと、「世界を変えたいのか?」という問い。普通は問わないような問いを、あえて自分に何度も問いかけてみる
一見近いけど、実はかなり違う。世界一位になるのはエゴ的だけど、世界を変えるのは志のようなもの。世界一位になるよりも、世界を変える方が価値がありそうだなと僕は納得したんです。
それに欲望だけを持っていても、周りは誰もついてきてはくれない。「海賊王になりたい!」だけじゃなくて、「世界を平和にしたいから、俺は海賊王になる!」という志にこそ人は共感して集まってくれる。
社会性や志のようなものを語る機会が増えると、周りからはあたかも最初から社会善のようなものしかなかったように聞こえると思うけど、実際は段々と整理・成熟されていっただけのような気がします。
今はずっと苦手だった「SNS発信」にも取り組む
ー元々はSNS発信をあまりされなかった寺田さんが、最近は神山まるごと高専に関して精力的に発信されていて、覚悟を感じます。
SNSは今もヒヨヒヨですけど(笑)、クリエイティブディレクターの山川咲に尻を叩いてもらっているから、続けられているかな。僕は先程言った通り、なんのために存在しているのか、シャープに考えたい欲求があって。
今はSNS発信をする目的が明確で、曇りなく進められている。「これは真剣に届けるべきだ」と心から思えるし、学校を作るプロジェクトは決して私的なものではなく、誰が聞いても社会的な意義があるものだから。
Sansanを創業した2007年は、インターネット利用がまさに盛んになり始めた時期で、個人の発信は今ほど盛んではなかった。僕自身発信は不得手だし、「会社にとって個人発信は本当に必要なのか」と考えるうちに、会社がそれなりに立ち上がり、僕個人の発信の必要性は薄まっていった。
寺田親弘=Sansanという見え方ではなく、経営者は誰だか分からないけれど、Sansanが良いビジネスとして認知される方がかっこいいって思うしね。でも、Sansanを創業した頃と比べて、今の時代は変化してる。
仮に今起業したなら、SNS含めあらゆる手を使って、会社やビジネスの価値を届けるもの。発信していないと本気じゃないのと紙一重だと思われるくらい。今回、僕自身にとって2度目の創業の覚悟でもあるから、発信は苦手だけど、頑張ろうと思っています。
でも純粋に、社会的に意味のあることをみんなに共感してもらえることは嬉しいし、皆さんの共感は何よりのパワーになりますね。
夢は日本のシリコンバレー、起業家が生まれる場所へ
ー最後に、神山まるごと高専の志を教えてください。
僕が目指していることは、神山町が、未来に、シリコンバレーのような場所になって、高専の卒業生から起業家がたくさん生まれること。アントレプレナーシップを持った様々な人が活動する発信地になっていてほしいし、そうなると思う。新しい人や企業がどんどん神山町に参加して、たくさんのイノベーションが生まれたら嬉しいし、誇らしい気持ちになります。
そんな未来を実現する、「何か世の中に対して仕掛けたい」と思うような学生に、ぜひ神山町に来てほしい。プログラミングやデザインに興味はあって、面白いことをしてみたいと思うような学生もいいですね。神山まるごと高専の卒業生が、世界中で起業して、世界を変えるチャレンジを仕掛ける未来を夢見ています。
僕はキャラ的に、温かくみんなと包み込むような理事長ではないけれど、学生のみなさんには「真剣に生きている、かっこいい大人の姿を見せられるイノベーターな起業家」でいられるように頑張ります!
※設置構想中のため、今後内容変更の可能性があります。
[取材構成編集・文] 水玉綾、林将寛 [撮影] 小澤彩聖