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「起業家講師」SHIRO今井&ワンキャリア宮下が抱く、神山まるごと高専生への期待

まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

神山まるごと高専には、現在56名の起業家講師がいます。その定義は「社会にまだ無い価値を生む人」。世代や性別の多様性はもちろん、経営者に限らず、アーティストや建築家、研究者など、さまざまな分野の方が起業家講師になってくれています。

そこで起業家講師の中から、コスメティックブランド『SHIRO』代表取締役会長の今井さんと、就活サイト『ONE CAREER』転職サイト『ONE CAREER PLUS』を運営するワンキャリア代表の宮下さんにインタビュー。

なぜ起業家講師を引き受けてくれたのか、学生たちに何を期待しているのか。起業家講師の企画担当者である丸山咲が聞きました。

2人が起業家講師を引き受けた理由

丸山:起業家講師の企画責任者の丸山です本日はよろしくお願いします。最初に自己紹介をお願いできますか?

宮下:ワンキャリアの宮下です。 『ONE CAREER』という大学生の2人に1人が利用する就活サイトを運営しています。

株式会社ワンキャリア 代表取締役社長 宮下 尚之さん

1985年兵庫県神戸市出身。新卒でマース ジャパン リミテッド入社後、2015年ワンキャリアを創業。「人の数だけ、キャリアをつくる。」をミッションに、キャリアデータプラットフォーム事業を展開

学生の皆さんが仕事を選ぶ時、あるいは皆さんが起業して誰かを雇う際に使っていただけるサービスです。

今井:私は『SHIRO』というコスメティックブランドで、ものづくりをしています。例えば神山町の特産品はすだちですが、そういった地域の素材を大切にしてコスメやスキンケア製品などをつくっています。

株式会社シロ 代表取締役会長 今井浩恵さん

短大卒業後、食品や雑貨製造のローレルに入社。2000年に26歳でローレルの代表取締役に就任。2015年、自社ブランド「ローレル(LAUREL)」を「シロ(shiro)」に、10周年の2019年に社名をシロに変更し、「シロ(SHIRO)」へとリブランディング。2021年、代表取締役社長を退任し、ファウンダー/ブランドプロデューサーに就任。みんなのすながわプロジェクトをスタート。今年4月末には新工場と付帯施設を含む「みんなの工場」がオープン予定。

丸山:私は起業家講師の企画担当として、高専のミッションである「モノをつくる力で、コトを起こす」を体現している方々に対して、起業家講師になっていただけないか、お声掛けをしてきました。

お二人はなぜ起業家講師を引き受けてくださったのでしょう?

宮下:僕は事業を通じて「仕事選びの情報」を提供していますが、仕事選びと教育には大きな断絶があると思っています。

学校で勉強していることが仕事にどう役立つのかがイメージできず、どういう職があるのかもわからない。だから大学生の多くが「やりたいことがない」と悩んでいます。

そういった現状に対して、「より良い仕事選びを実現するには、教育を変えなければいけない」という想いが以前からありました。

だから神山まるごと高専の構想を知った時、めちゃくちゃ共感したんです。実際に寺田さん(神山まるごと高専理事長)と食事をした時にそう話したら、もう、その熱量が半端じゃなくて(笑)

「この人、本気でやるんだ」と思ったし、当時は上場準備中だったので、「上場で得た個人の資金は、最初にこの学校に使おう」と決めていました。なので、起業家講師として声を掛けていただけたのはうれしかったですね。

今井:日本はものづくりの国なので、私はシンプルにその楽しさを伝えたいと思いました。

これまでなかったものが目に見える形になって、人の笑顔につながっていく。こんな簡単なことはないですから、「ものづくりは難しいことじゃない。みんなにもできるんだよ」と学生たちに伝えられるといいですね。

それができれば、日本の教育そのものが変わっていくんじゃないかな。

多様な起業家講師が神山に集う『Wednesday Night』

丸山:神山まるごと高専開校後、起業家講師の皆さんに参加いただく企画が『Wednesday Night』です。

その名の通り毎週水曜日の夜に行うもので、内容は「トークライブ」「ごはん」「ナイトセッション」の3部構成。起業家講師の皆さんには2人1組で神山まるごと高専に来校いただき、一方的なプレゼンテーション講義をするだけでなく、2人1組ならではのライブ感のあるセッションのあと、学生と一緒に寮のごはんを食べ、同じ時間を過ごしていただきます。

最後のナイトセッションは定員を設け、10人程度の少人数で行う予定です。車座になって、当日のトークライブの話から、起業の相談、友人関係や恋の悩みまで、講師と学生が対等な、ひとりの人間対人間として、何でも話し合える場にしたいと考えています。

『Wednesday Night』は単位の出る授業ではなく課外活動であり、参加は自由です。自分が興味を持つからこそ主体的に参加でき、より多くの学びにつながると思っているので、参加するかどうかは自分で選んでほしいと思っています。

ただ、学生のみんなにとって、講師の社名や個人名だけの情報から、その講師の話が自分の興味関心に当てはまりそうか、判断をするのは難しいです。だから学生たちが興味を持つきっかけをつくるために、趣味や出身地など、起業家講師の皆さんとの接点を持ちやすくする情報を集め、データベース化し展開する予定です。

「趣味のゲームが同じ」「出身地が近い」など、入り口は何でもいいので、何かしら学生たちの興味のアンテナに引っかかればいいなと思っています。

今井:「就職のために必要だから」といった目的を意識しがちですが、そういう偶然性こそが本質な気がしますね。

丸山:2022年夏に2回開催したサマースクールでは、『Wednesday Night』を実験的に実施しました。お二人は参加してみていかがでしたか?

今井:すごかったです。私が知っている中学3年生とは全然違った。

私が参加した回では、グループワークの際に各グループともあまりうまくいっていませんでした。ところが学生たちがぶつかり合い、喧嘩しながら解決していった。それが印象に残っています。

「あの言い方が嫌だった」「お風呂から勝手に上がって、待っててくれなかったじゃん」みたいな一見些細に思えることも率直に言い合って、それによってチームが良くなり、最終日はすばらしい発表をしていて。

悪いところをお互いが謝りながら、崩壊したものを泥臭く建て直していく。その過程はチームビルディングそのものですよね。

丸山:宮下さんは別の回での参加でしたが、また違う雰囲気でしたね。

宮下:そうですね。僕らは普段大学生と接することが多いですが、感覚的には大学生と同じでした。

僕が参加した回で面白かったのは、学生たちの好みの起業家講師がそれぞれ違ったこと。起業家講師は4人いましたが、各自キャラも違ったので、「誰の話を聞くのがいいのか」を学生たち自身で選択する、その行為が面白かったですね。

丸山:起業家講師の皆さんは、やっていることはもちろん、考え方やコミュニケーションスタイルもバラバラです。それは意図したことでもあって、一般的に学校では先生が選べないじゃないですか。

先生の言っていることがどれだけ正しくても人として信頼できなければ聞けないし、逆に言っていることはよく分からなくても、「この人に大丈夫って言われたから大丈夫だろう」と思える先生もいる。そして、後者の存在がチャレンジをする際に大事だと思っています。

宮下:「モノをつくる力で、コトを起こす」の解像度を上げるためにも、起業家講師の多様性はめちゃくちゃ大事ですよね。

僕は学生時代、絵や音楽などのクリエイターに憧れながらも、クリエイティブなことは何もできなくて。そこにギャップを感じていて、自分にはものづくりはできないと思っていたんです。

でも、起業してプロダクトづくりをして気づいたんです。ものづくりの幅はもっと広いと。

今井:まさにそう。「ものづくりをする人=すごい人」になっちゃっているから無理だと思い込んでいるだけで、本当は誰だってつくれるんですよ。

丸山:『Wednesday Night』では、まさに起業家講師の皆さんに「モノをつくる力で、コトを起こす」をテーマにトークライブをしてもらう予定です。

宮下:そうやって「ものづくり」の概念自体を広げられるのも、神山まるごと高専の良さだと思いますね。

学生と起業家講師は「同じ想い」を持つ者同士

宮下:サマースクールの夕食後、学生たちが起業家講師を集め、ホワイトボードを引っ張ってきて、「これに対してどう思う?」といった質問を受けました。

「教えてください」ではなく、「私たちはこう考えている」という意思があったのが素晴らしいと思いましたね。

今井:なかなか「うん」って言ってくれないですよね。もちろん腑に落ちたら「そうか!」ってなるけど、納得してない中で「うん」を絶対に言わない。

宮下:そう、言ってくれない!(笑)

今井:それは「ここは小さな社会、あなたは大人」という、学校の運営方針によるところが大きいと思います。

神山まるごと高専に集まる子が特別なのではなく、「ルールに文句を言うのではなく、ルールを自分たちで作る」という前提を理解すれば、きっとどんな子でも大人と対等になっていくんじゃないかな。

宮下:あとは、この起業家講師の企画って余白が多いですよね。サマースクール当日も話す内容は自由だったので、僕は作ってきた自己紹介を急遽全部変えたんです。

というのも、僕以外の3人の起業家講師は天才タイプだったんですよ。講師の話の背景を伝えた方が、学生が彼らの話を聞きやすいと思ったから、自分の紹介はあえて一瞬で終えて、他の3人の他己紹介をしました。

当日の空気を踏まえ、自分の役割を考えて、その場の人たちみんなで場をつくりあげていく。あれができるのは、まさに企画と運営に余白があるからですよね。

丸山:サマースクールは2回行いましたが、それぞれやり方は結構変えているんです。起業家講師の皆さんはそれを許容してアレンジすることを楽しんでくれる。学生も「自分でルールが決められてラッキー」と言ってくれる。全員が作り手というのは神山まるごと高専らしいなと思います。

学生たちと起業家の皆さんは年齢も経験も全く違いますが、学生に対して距離を感じることはありましたか?

今井:ないですね。世の中を見渡せば「自分がもっとよくなりたい」という人がほとんどだけど、参加していた学生たちは「周りの人を幸せにしたい」「社会や地球を良くしたい」と、外に目を向けている。同じ想いを持った者同士だから、対等に感じるのかもしれないですね。

実はサマースクールで連絡先を交換した子から、「高専の推薦入試の課題を見てほしい」と連絡が来たんですよ。本気で考えて「ここが足りないんじゃない?」と返信し、最終的に提出したものを見せてもらったら、全部無視されていました(笑)

宮下:めっちゃいい(笑)

今井:それぐらい本気で課題のことを考えているのでしょうね。経験や年齢ではなく、課題への熱意や考えた時間で、自分なりの判断をしている。そこには忖度がないし、本当に対等だなと思いました。

丸山:むしろ大人の方が起業家講師の話を聞いて、分かったふりをしちゃうことが多いでしょうね。だからこそ、15歳のタイミングで起業家講師の話を届けることに価値があるんです。

学生たちの「今」に期待

宮下:僕はむしろ、学生たちから勉強をさせてもらっています。これまで『神山まるごと高専 presents 未来の学校FES』やサマースクールに参加しましたが、未来をつくっている感覚が強くあるんですよ。毎回自分の想像を超えてくる。

だから、僕から何かを与えるのではなく、僕が勉強中です。「一緒にやり合おうぜ」という感じですね。

丸山:例えば、どんな学びがありましたか?

宮下:普段話している言葉がいかに限定的かを痛感しました。「大学生の仕事選びを手伝っています」という説明に対して、「仕事ってどう選ぶんですか?」という質問が来る。

今井:そもそもね(笑)

宮下:確かになと思って、考えちゃいました。お客さんの名前を言っても「聞いたことあるね」くらいの感じだから、「社名を言えば仕事が説明できる」というロジックも通用しない。

その気付きは本当に貴重です。学生からの問いを通じて、もっと本質的な価値を提供できるんじゃないかと思わされました。

丸山:神山まるごと高専の学生や、高専に興味持ってくれている学生に対して、どんな期待がありますか?

今井:10年後、高専から卒業生が200人輩出されたら、日本は変わると思います。ざっくり言えば、「社会を良くするための会社」が200社できる。日本に限らず、地球が絶対に良くなりますよね。

丸山:起業家講師や高専スタッフ、学生たちのご両親など、学生が起爆剤になって「変わらなきゃ」という想いはどんどん波及しています。そう考えると、実際のインパクトは200人以上ですよね。

宮下:これだけ僕らが感化されているということは、純粋に「彼ら、彼女らの今」に価値があるんだと思います。

だから僕の期待は、これから始まる一期生からの5年間にあります。将来何かをやるのはもう分かっているので、大成する過程の価値に僕はフォーカスしたい。

すでにたくさんの人が刺激を受けているわけだから、本当に「いま、この瞬間」に期待していますね。

今井:サマースクールで一緒だった子の両親は教師でしたが、すでに2人は自分たちの授業に高専の要素を取り入れたのだそうです。まだ開校していないのに、既存の学校にも変化がある。すごいことですよね。

丸山:1期生の入試が終わり、悔しい結果となった学生もいます。そもそも受験自体を諦めた学生もいると思いますが、そういう学生たちに伝えたいことはありますか?

今井:神山まるごと高専に興味を持ったことで得たものはきっとあると思うので、それをご縁があった学校に波及する最初の一人になってくれたらうれしいですね。神山まるごと高専じゃなくてはできないことは何もありませんから。

宮下:音楽ユニットの『CHEMISTRY』と『EXILE』の初代ボーカルは、どちらも同じオーディション番組に出ていて、最終的に選ばれたのはCHEMISTRYでした。でも、EXILEは別のかたちで大活躍していますよね。

時代的にこのたとえは伝わらない気がしますが(笑)、何が言いたいかというと、何かの機会でダメだった人が別の道で成功するのはよくある話だということ。

いつ別のチャンスが来るかはわからないし、別に今をピークにしなくていい。それぞれの人生を設計してほしいなと思います。

丸山:「合格させなかったことを後悔させてやるぞ!」くらいの気持ちでいてほしいですね。

例えば『Wednesday Night』に参加したければ、新しいルールを作りに来たっていい。もっと面白い企画を作ってみてもいい。

そういう動きを私たちは待っているし、変えられないものはないし、「自分が選んだ道を正解にする」という想いを持ってくれたらうれしいなと思います。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影] 澤圭太・生津勝隆

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