神山まるごと高専が『未来の学校FES』に込めた想い「15歳の選択を前に“あなたはどうしたい?”を問う機会を」
まるごとnote編集チームです。
「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専(仮称・認可申請中)(以下、神山まるごと高専)に関する情報を伝えています。
3月26日(土)、27日(日)の2日間にわたり、神山まるごと高専は『神山まるごと高専 presents 未来の学校FES』を開催します。中学1〜2年生と、その保護者の皆さまに向けたイベントで、多様な将来の選択肢に触れ、体験してもらうためのコンテンツを現在準備中です。
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この『未来の学校FES』には、一体どんな想いが込められているのでしょうか。企画を担当する、神山まるごと高専のクリエイティブディレクター・山川 咲と尾田 瞳に聞きました。
※神山まるごと高専は設置構想中のため、今後内容変更の可能性があります。
『未来の学校FES』の原点にある想い
ーー『未来の学校FES』について教えてください。どのようなイベントなのでしょうか?
山川:『「?」を「!」にする』をコンセプトに、「あなたはどうしたい?」を問うイベントです。
その原点にあるのは、「15歳になる人たちが卒業後の進路を決める前に、立ち止まって自分の未来を考える機会があったらいいな」という想い。
多くの人にとって15歳の進路選択は初めて迎える「自分で何かを決める」タイミングです。でも、その選択肢はとても狭いと思っていて。
偏差値や住む場所、部活などを軸に学校を選んで、当たり前のように進学するけれど、海外の学校も選択肢の一つだし、あるいは伝統工芸の職人に弟子入りする道だってあるかもしれない。本当はそんな多様な選択肢の中から「自分で決める」ことができたらいい。
だから、さまざまな選択肢と世界の広さを知ってもらうことで、「自分は何をしたいんだろう」を考えるきっかけを、より多くの人に届けたいと思っています。
ーー偏差値や部活だけじゃない、もっと広い価値観や選択の軸を知る機会として『未来の学校FES』があるんですね。
山川:そう。神山まるごと高専の一期生となる40人を超えて、何万人といる「15歳を迎える人たち」のために何ができるのかを考えたい。だから『神山まるごと高専FES』ではなく、『未来の学校FES』なんです。
そうやって間接的にでも中学生の皆さんと接点を持つことで、彼ら・彼女らの意思や選択肢が変わり、その結果として世の中も変わっていくんじゃないか。
そう思って私は神山まるごと高専のプロジェクトに参戦しているし、その象徴的なイベントとして『未来の学校FES』があると思っています。
尾田:個人的な話ですが、私は神山まるごと高専の一期生となる学年の子どもを持つ親でもあります。
この世代はコロナに翻弄され、体験そのものが明らかに乏しかった。小学校を卒業する時から今までずっとマスクの生活で、学校のみんなとマスクなしで笑い合った瞬間なんて、多分一度もありません。
だからこそ中学3年生になる前のタイミングで、たくさんの価値観に触れ、感化され、「こんな選択肢もあるんだ」と気付くきっかけを得てほしい。そんな体験の機会になることを意識して、『未来の学校FES』の準備を進めています。
企画者2人の「15歳の選択」
ーーお二人が中学生だった時の「15歳の選択」についても聞きたいです。どんな思い出がありますか?
山川:私は子どもの頃、田舎で自給自足の生活をしていました。中学生の時は本当に孤独だったし、人と違うことが悩みで。「どうして親の意思決定に翻弄されなきゃいけないんだろう」と思いながら生きていて、思い出しただけで涙が出ちゃうぐらい真っ暗でした。
だから「好きな高校に行っていい」と言われた時、世界が開けたような気がしたんです。卒業後の道を自分で選んだことで、自分の生き方に対する責任と意思が初めて生まれたし、そこから私の人生がちゃんと始まった気がしていて。
尾田:自分の人生に責任を持つ意識が生まれたのは、振り返ってみると私も15歳だったと思います。
当時は「しっかりもので真面目な自分として頑張らなきゃいけない」と思っていたけれど、ある女子校の文化祭でギャルを見て、「こんなに自分を出していいんだ!私も殻を破れるかも」と思ったんですよ。
山川:私は「怖いギャルがいない学校に行こう」と思って規則が厳しい進学校に行ったから、真逆だ(笑)
尾田:高校時代の私は金髪にルーズソックスで、まさに咲さんが避けていたギャルでしたね(笑)
そうやって自分で選んだ高校に通い、親から離れて生活する時間が増える中で「自分で生きていく」ことを意識し始めたような気がします。
山川:自分で選ぶこと自体が、私は限りなく正解に近いと思っていて。たとえ失敗したとしても、自分で選んでいればその経験は絶対に糧になります。
そういう経験が初めてできたのが、私にとっては高校選びだった。「自分で選ぶ」こと自体に、生まれ変わるぐらいの価値がありました。
ただ大人になって振り返ると、仕事を通じて自己表現をしながら生きることと、部活動や地域、偏差値という進学先を選ぶ軸が解離していることに違和感もあって。「それって人生の中で本当に大事なことだっけ?」と思う。
尾田:「この高校に行ったら親が喜ぶかも」「部活の先生に続けた方がいいって言われたから続けようかな」「友達がこの学校に行くから自分もそうしよう」など、選択肢を自分の外側に置いて考えることが多いですよね。
だからこそ『未来の学校FES』では、「あなたはどうしたい?」という問いかけを大切にしたいと思っています。
ーーあなたはどうしたい?」は大切ですが、15歳だった当時の自分を振り返ると、果たしてそこに向き合えただろうか、と思います。
尾田:そんなに難しく考えなくていいんですよ。「楽しい」「好き」といったポジティブな感情は、誰もが何かしら持っていると思います。まずはその気持ちを大切にしてほしいですね。
山川:そうそう。「この考え方は違うかも」「これが好き」「なんか楽しい」といった感情や感覚にまずは出会って、そうやって自分自身を知ることが「自分で選ぶ」ことにつながっていくんじゃないかな。
ーー『未来の学校FES』には、もっと気楽に、楽しむつもりで参加すればいい?
山川:そうですよ。これは「フェス」ですからね。
『未来の学校FES』で得られるもの
ーー『未来の学校FES』の内容についても教えてください。どんなことができるんですか?
山川:「15歳にどんな選択の可能性があるのか」が知れたり、2030年の未来予習ができたり、特別授業や実際に自分がアウトプットをするワークショップがあったりと、さまざまなコンテンツを用意しています。
会場は東京品川と徳島神山の2つあって、品川の会場では実際の授業を中心に、楽しみながら問いかけられ、考え、アウトプットする体験が得られます。授業はオンラインでも視聴可能です。
一方の神山の会場では、神山まるごと高専や神山という土地について、1日かけて親子一緒に学ぶ15組30名限定のツアーを行う予定です。
コロナ禍で楽しいイベントがなくなってしまった子どもたちに対して、私は一人の大人として「何かしなきゃ!」という想いもあって。感染症対策をしっかり行った上で、コロナを忘れさせるような楽しいフェスにしたいですね。
尾田:私は品川会場の授業の設計をしていますが、神山まるごと高専のエッセンスであるデザインやテクノロジー、ものづくりの要素を入れつつ、学びの土台となる人間性の部分に着目した授業も準備しています。
「自分って何だろう」といった自己理解を大切にしていて、おそらくそれは15歳の皆さんが一番興味のあることじゃないかな。
山川:でも、重い内容ではないよね。
尾田:楽しんでもらえるように、バランスは意識していますね。たった1回の授業でどれだけのものを皆さんに持ち帰ってもらえるのか、どうすれば本当に響く言葉を届けられるのか、今はまさに毎日考えているところです。
まだ予定ではありますが、先生たちには自分自身の原体験や失敗談など、「その経験があって今の自分ができた」エピソードをお話いただきたいと思っています。
尾田:例えばコクヨのエンジニアの方に中学時代の話を聞くと、「これ見てください」と当時作った作品の写真がパッと出てくるんです。それだけものづくりにこだわりと誇りを持っているんですよね。
そういう姿からものづくりに興味を持つ子が出てきてくれたら本当にうれしいし、先生たちのエピソードから何かを受け取ってもらえたらと思っています。
ーーたくさんの種類の授業がありますが、どうやって選べばいいですか?
尾田:カテゴリーにとらわれず、気になった授業を気軽に受けてみてください。普段あまり興味のないジャンルの授業にダイブしてみるのも、今回のフェスの醍醐味です。
先生たちは熱意を持って準備をしてくださっていますし、どの授業をとっても後悔はさせません。
山川:全体として、授業は「心が動くこと」を意識して作っていて。普通の授業は知識を得ることが目的だけど、『未来の学校FES』では「10年後にも心に残るワンシーンを残すこと」を考えています。ぜひ心が赴くままに、受けたい授業を選んでほしいですね。
尾田:保護者の皆さんも「ものづくり楽しそうじゃない?」「多様性って大事だよね」など、お子さんとコミュニケーションを取ってみてください。きっとお子さんも新たな関心と出会いやすいんじゃないかなと思います。
『未来の学校FES』はどんな人におすすめ?
ーーどんな人に『未来の学校FES』をおすすめしたいですか?
尾田:これから15歳を迎える全ての中学生の皆さんに、軽い気持ちで遊びに来てほしいです。その前提で、特に「自分って何なんだろう」ともやもやしている人が参加してくれたらうれしいですね。
山川:『未来の学校FES』では、学校という枠組みでは見えなかった何かに出会えるんじゃないかと思っています。だから「今の学校が合わない」と感じている人にも来てほしいかな。
日本の一般的な学校は一つのスタイルでしかなくて、世界にはもっと多様な学校がある。私たちは教育業界の在り方に囚われていない新参者として、新しいスタイルで教育に向き合っているので、学校に対して希望を捨てずに遊びに来てもらえたらいいなと思います。
尾田:一方で保護者の皆さんに向けた授業も用意しています。「うちの子にはもっとこういう可能性があるんじゃないか」「子どもに外の世界を見てほしい」と思っている親御さんは、ぜひお子さんを誘って、一緒に学ぶつもりで参加してみてください。
山川:神山まるごと高専は「大人が共に学ぶ学校でありたい」と思っているから、『未来の学校FES』でも親向けの授業をやることに決めました。
初めての子どもの進路選択は、親にとってもすごく難しくて大変なこと。正解はないけれど、「これからの未来を踏まえて、自分はどういう風に子どもに接したらいいんだろう」といったことを、親子で共に考えることが大切だと思っています。
『未来の学校FES』はまさにその良い機会。保護者の皆さんにとっても視野が広がって、子どもとの関わり方を見つめ直すきっかけになるとうれしいですね。
尾田:帰り道で「あの授業が面白かった」「こういうことを感じた」と親子で意見交換をするだけでも、お互いの学びにつながるはず。子どもの進路選択において親は欠かせない存在だからこそ、最終的に親と子どもが同じ方向を向けると、15歳の選択はより輝きを増すのかなと思います。
参加を考えている方へのメッセージ
ーー最後に『未来の学校FES』への参加を考えている方に向けて、メッセージをお願いします。
尾田:先生もスタッフも、このフェスに関わる大人たち全員が「次の世代のために何かを残したい」「子どもたちの未来を一緒に考えたい」という想いを持っています。
15歳は可能性に溢れているし、世界はあなたたちのことを否定しません。「好き、嫌い」「やりたい、やりたくない」といった自分の気持ちに素直になれるのは、15歳だからこそ。そういう自分の想いを大切にしてほしいと心から願っています。
山川:神山まるごと高専にとって「未来の学校FES」は初めての大規模なイベントですが、「何かを教えよう」「正解はこっちだ」ではなく、「こういうものがあったらいいよね」という理想を一生懸命考えながらつくっています。
新しい事例は世界や社会を変える突破口になると私は思っていて。そのためにはお金や時間、労力、クリエイティビティなど、いろいろなものが必要です。
今回の「未来の学校フェス」は私たちじゃないと作れないイベントで、より良い未来をつくるためにやらなければいけないことの一つ。皆さんにも、このイベントを一緒に作るような気持ちで参加してもらえたらうれしいですね。
ーー『未来の学校FES』自体が神山まるごと高専のコンセプトである「モノをつくる力で、コトを起こす」を体現したイベントなんですね。
山川:まさしくそう。最初にコトを起こすのは難しいけれど、失敗を恐れずにチャレンジした先にはドラマが待っている。そう信じて準備を進めているので、ぜひ当日を楽しみにしていてください!
[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影]澤圭太