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【CTC】CTCが支援を決めた理由「瞬間的にROIに見合うなと思った」/スカラーシップパートナーインタビュー

まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。

企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付により、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。

神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
https://kamiyama.ac.jp/news/0309-01/

本記事ではスカラーシップパートナーの1社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)代表取締役社長・柘植一郎さんに、神山まるごと高専理事長の寺田親弘が、その背景を伺いました。

スカラーシップパートナーについてプレゼンをした寺田に対し、プレゼンが終わる前から「結局はやると思う」とおっしゃっていた柘植さん。なぜそんなにも前向きに考えてくださったのでしょうか。

スカラーシップパートナーは「元が取れる」スキーム

寺田:おかげさまで神山まるごと高専は、目標だった学費無償化を実現できました。改めまして本当にありがとうございます。

柘植:無事に開校したことも、学費無償化を実現したことも、どちらも本当にすごいことです。これからも大変なことはあるでしょうけど、神山まるごと高専なら大丈夫だろうなと思います。今後が楽しみですね。

代表取締役社長 柘植 一郎
1958年東京都生まれ。80年慶應義塾大学経済学部卒。同年伊藤忠商事入社。2009年紙パルプ部長。12年執行役員。16年ベルシステム24ホールディングス代表取締役兼社長執行役員CEO、ベルシステム24代表取締役兼社長執行役員。20年6月から現職。

寺田:CTCさんにはSansanとしても大変お世話になっていました。そのご縁でCTCさんや柘植さんについて調べるうちに、もしかしたらスカラーシップパートナーに興味を持っていただけるかもしれないと、ドキドキしながらご説明に行きました。

柘植:最初に寺田さんのお話を聞いて、個人的にはなるほどと思いました。スキームが非常に……シンプル&ビューティフルというかね。

寺田:ありがとうございます。

柘植:必要なものは全部ありつつ、無駄なものはなく、持続可能性がある。そして、古さと新しさの双方がカバーされています。

日本の大手企業からお金を集める点はレガシーなアプローチだけれども、それを運用して学生に還元するというスキームは、意外とこれまでにありませんでした。そこがいいですよね。

寺田:CTCさんで印象深かったのは、ROI(※)の考え方です。柘植さんは「これは元が取れるのか」とおっしゃったんですよ。「社会貢献=施し」と捉えている企業も多くいた中、非常に印象に残っていますね。

※「Return On Investment」の略称。その投資でどれだけ利益を上げたのかを計る指標のこと

要するに、単なる一方通行の社会貢献ではなく、「そこで生まれるものが会社にとっても価値あるものなのか」を一貫してわれわれに問うていました。

柘植:綺麗ごとだけでも、お金の話だけでも、その片方だけではビジネスは回りませんからね。「元が取れる」という言い方をいやらしく感じる人もいるかもしれませんが、簡単に言えばそういうことなんですよ。多くの人は元が取れないことはやりたくないと感じるでしょうけど、それは会社も同じです。

逆に言えば、そこさえクリアできたら、あとは「どうやるか」を真剣に考えればいいだけです。格好つけていても仕方がないから、早いところそこをはっきりさせたかったのでしょうね。その結果、「元は取れるのか」なんて言い方になってしまったのだと思います。

寺田:(笑)

柘植:ただ、スカラーシップパートナーの話を聞いたとき、瞬間的にROIは見合うなと思ったんですよ。

ROIの「Investment」は投資額10億円と、神山まるごと高専との連携など今後発生するであろう目に見えないコストです。

一方の「Return」は現段階で明確なものがあるわけではありませんが、学生が高専で学び、卒業後に活躍することで世の中が良くなれば、バタフライエフェクトのように回り回って絶対に何かしらが返ってくるに決まっています。

例えば、スカラーシップパートナー参画のプレスリリースを出したところ、「素晴らしい」「誇りに思う」といったメールが社員から来たんですよ。社長が褒められることなんて滅多にないですから、これはなかなか珍しいことです。

寺田:そうなんですか。うわぁ、うれしいな……。

柘植:つまり、すでにROIのうちの1%ぐらいは発生しているわけです。この勢いでいくと、そう遠くない未来に十分元は取れると思っています。

だから最初に寺田さんとお会いした日、プレゼンが終わる前から「結局はやるんですけど」なんて言って、周りのスタッフをあたふたさせてしまいました(笑)

寺田:その瞬間、僕は喜びのあまり飛び上がりそうになったのを必死で押さえていました(笑)

その後、正式にスカラーシップパートナーとして参画していただけるとご連絡をいただきましたが、取締役会でも大きな反対はなかったと聞いて、これまたうれしかったです。その瞬間、ガッツポーズしたのを思い出しました。

柘植:今回の件に限らず、2021~2023年度の中期経営計画を作る以前から、重要なテーマとして社会課題に関する議論はしてきました。

そういう下地がそもそもあったので、議論の場では「なぜやるのか」というよりは、「スカラーシップパートナーの美しいスキームが上手くいかないとしたら、何が原因なのか」を考えていきました。

投資の利回りはまずマイナスにならないでしょうし、起業家講師として豪華な方たちが集まっていますから、波及効果も高いでしょう。これだけ先進的かつ画期的な学校であることを踏まえれば、学生さんも興味を持つのは間違いありません。

そうやって考えていくと、このスキームが上手くいかない理由はほとんどないですよね。

15歳はちょうどいいタイミング

柘植:寺田さんには「高専の『15歳』というタイミングが素晴らしい」とずっと申し上げてきました。

大人になると価値観がある程度固まってしまうし、かといって中学生だと基礎体力に不安があります。その点、15歳は大人と子どもの中間というか。ちょうどいいタイミングだと思います。

寺田:神山まるごと高専は、「起業によって社会に大きなインパクトを与える」ことを15歳の選択肢として提案しました。

もちろん本校は一学年の定員が40名と狭き門で、入れる人は限られています。残念ながら合格を出せなかった人もいますが、「10代から起業を志した生き方をしていいんだ」という想いを持つ人を増やす意味では、一期生44人以外の15歳にも広く届いたように感じています。

それがこの先積み重なっていくと、神山まるごと高専の学生にとどまらない大きな意味を持つのかなと。

寺田:ところで、柘植さんが15歳の頃はどのような少年でしたか?

柘植:50年も前のことですからほとんど忘れていますね(笑)。僕は趣味がフルートだったので、フルートばかり吹いていたような気がします。まぁ、大したことはしていなかったですよ。

ただ、やはり多感だったとは思います。なんとなく思っていることはあるけど、それがはっきりはしていない。「このままでいいのか?」という感じもあるけど、何をすればいいかはわからない。そんな感じだったかな。

寺田:何をしていいかわからないけど、野心だけはある。それは神山まるごと高専の学生も同じだと思います。

柘植さんは、自分の道が見えたタイミングはありましたか?

柘植:大学時代にアメリカに行ったことでしょうか。19歳で初めてカリフォルニアに行って、「これは今までの世界観と違うぞ」と。新鮮な体験でしたし、思ったより自分の英語が通じなかったのも思い出深いです。

その後、学生の間にもう一度アメリカに行ったのですが、そうしたら一気に楽しくなりました。世界が広がったような気がしたのを覚えています。
その経験が「海外とビジネスをしたい」という思いを育み、新卒で伊藤忠商事に入社したことにつながっているのでしょうね。

「縁」以外で説明ができないことはたくさんある

寺田:これから神山まるごと高専とやりたいことはありますか?

柘植:たくさんありますが、むしろ「でしゃばらない」ように気を付けなければと思っています。

もちろん期待されていることにはお応えしますし、高専に対して消極的なわけでもありませんが、外の人間がでしゃばり過ぎると面倒なことが増えますからね。われわれが自分中心の考え方を押し付けるのは違いますので、その辺は謙虚にやっていきたいと思います。

寺田:頼もしいです。最後に、学生へメッセージをお願いします。

柘植:あまりでしゃばりたくないので、寺田さんに向けて用意したメモの中から一つお伝えしますね。

寺田:ありがとうございます。メモまでご用意いただいて、グッときます。

柘植:縁ってありますよね。この歳になって改めて思いますが、縁は本当に大事です。

この世には、縁以外で説明ができないことがたくさんあるんですよ。地球上にたくさんの人間がいる中で、こうして寺田さんとお話ししている。これは一体何なのだろうと。神山まるごと高専は全寮制ですが、「同じ釜の飯を食う」のも同じことです。

これからCTC奨学生になる学生たちもまた、縁です。

スカラーシップパートナーには有名な企業が並んでいますから、「別の会社の奨学生がよかった」と思う人もいるかもしれません。僕が学生だったらそう思ったかもしれません。

でも結局のところ、縁を良いものにするかどうかは自分次第です。5年間という長い時間をかけて、CTCと学生の皆さんとのご縁を、一緒に良いものにできればと思います。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影] 澤圭太