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国立高専機構理事長に聞く、15歳からモノづくりを教える意味

まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

今回のnoteでは、全国51校55キャンパスの国立高専の運営を司る国立高等専門学校機構の谷口理事長に、神山まるごと高専の学校長・大蔵が、高専の価値、モノづくりの意義について、お話を伺いました。

最近では日本独自の教育システムとして、海外からも注目を集めている高専。その可能性とは?

高専の価値は「世の中のため」を意識したモノづくり教育にある

大蔵:谷口理事長は、高専の価値をどのようにお考えでしょうか。

谷口:私が国立高等専門学校機構の理事長になってからの7年間で、海外から高専に関する問い合わせが複数ありました。

国内に立派な大学はあるし、世界の名だたる大学出身者もいる。それなのに世の中が変わらないのはなぜなのか。そういった疑問からいろいろ調べるうちに、日本のユニークな教育である高専に辿り着いたのだそうです。

何が言いたいかというと、「高専は世の中を変えられるかもしれない」という期待を持たれているということ。それは「世の中とのつながりを意識してモノづくりをする」という、高専の特徴ゆえだと思っています。

▼独立行政法人 国立高等専門学校機構 理事長 谷口 功先生

高専の5年間で、モノづくりの基礎から大学の専門領域を含む応用を学び、さらに社会とのつながりを考えて社会実装を行う。そういう中で学生は「自分の技術を世の中のために役に立てられないか」と自然に考えるようになるのです。

大げさに言えば、それこそが自分の存在価値になります。特に成熟社会で生きる今の若い人たちは「世の中のためになること」を大切にしていますから、ますます高専の存在意義も増していくと思っています。

大蔵:
そんな中、20年ぶりの新設校として神山まるごと高専が2023年4月に開校します。

谷口:高専全体にとって、本当に良い刺激になりますよね。少子高齢化で高校が廃校になる中、新設校ができるというのは、それだけ高専の教育が注目され、評価されているからだと思います。

特に、神山まるごと高専は私立高専ですから、思い切ったこともできるはず。そんな期待はとてもありますね。

大蔵:おっしゃる通り、私立高専かつ新設校であることは大きいと思っています。脈々と積み上げてきた歴史ある国立高専と比べ、われわれは新しい試みをトライしやすいと思います。

僕自身、国立高専出身なので、何かしら国立高専に恩返しをしたい想いがあります。神山まるごと高専で新しいことにチャレンジし、そこから生まれた良い事例を国立高専にフィードバックする。そんなことができたらいいなとイメージもしています。こうして口にすると少しおこがましいような気もしますが(笑)。

▼神山まるごと高専 学校長 大蔵峰樹

谷口:良い意味で競争したいですよね。お互いが刺激し合って、新しい考え方を生み出していけるといいなと思います。

大蔵:僕の母校でもある福井高専の校長先生とは、「福井高専の学生も神山まるごと高専の授業を受けたり、その逆ができるような取り組みができないか」といった話もしています。

神山まるごと高専は5学年合わせても200名の小さな学校ですが、本校の新しい試みで良いところを全国の国立高専をはじめ公立・私立高専とも連携することが出来れば、5万人を超える学生に影響を与えることもできると考えています。
絶対数という視点でも、そうやって社会にインパクトを与えることにつなげられると良いですね。

谷口:今はリモート授業もできますから、連携もしやすいですよね。連携できるところは一緒にやっていけば、高専全体がよくなり、結果的に世の中を変えることにつながると思っています。

大蔵:国立高専出身の僕が神山まるごと高専の校長をやる意味は、まさにそこにあるのかなと思います。高専全体を盛り上げるお手伝いができればうれしいですね。

モノづくりがベースにあるから、新しい価値が生み出せる

大蔵:谷口理事長はこれから高専でどのような人材を育成したいとお考えですか?

谷口:世の中を変えられる人です。世の中が何を求めていて、そのためにどうすればいいのか。周りの意見を聞き、自分で考えながら、自分で変えることもできる力を持った人を育てたいと思っています。

大蔵:実際に世の中を変えるのはモノをつくる人であり、実際に海外の名だたるIT企業は、創業社長が自らプロダクトをつくっているケースが非常に多いですよね。

一方、日本にもプロダクトをつくれる人はたくさんいるのに、そういう人はなかなか出てこない。それは、単にやり方を知らないからだと思っています。人材の質が悪いのではなく、知らないだけです。

谷口:これからは世界とつながらなければいけません。文部科学省の『トビタテ!留学JAPAN』でも高専生の留学を勧めていますが、そうやって世界水準を肌で感じながら、世界中の人の意見を聞くことが重要です。

大蔵:おっしゃる通り、日本の狭い範囲内ではなく、日本の外側の世界のやり方を教えることが必要なのだと思います。

その際、やり方を手取り足取り教えるのはダメだと思っていて。自分で荒地を耕せるようにクワの使い方は教えるけど、開拓の仕方は自分で勉強する。そういう人材を育てたいと考えています。

一人よがりにならずに世の中の課題を捉え、それを解決し、かつ使いたくなるようなモノをつくり、最も欲しがっている人の元にお届けする。その意味で、「テクノロジー」「デザイン」「起業」の三つの要素が必要です。

谷口:それが世の中の基本ですよね。お金を動かすだけでお金儲けができることはあっても、ものをつくることがベースになければ、新しい価値は生み出せません。

ただ、これまでの日本はモノづくりは得意だけれども、「それをどうやって人々のために役立てるか」という、つくったあとの部分が手薄でした。

今はそれでは駄目で、つくった先のことが、デザインやつくり方など、モノづくりの全てに関わってきます。そういう視点を技術者が持つことがとても重要です。

「連携のモノづくり」が世の中を変える

谷口:また、今のモノづくりは「分業」から「連携」に変わってきています。連携すればいろいろな人の意見を聞くことができ、その分さまざまなアイデアも出てくる。

高専生による事業創出コンテスト『DCON』はまさに連携によるモノづくりですよね。ロボットにディープラーニングやAIを取り入れることで、従来とは異なる機能をロボットに持たせようとする。「この技術を入れたらいいじゃん」と連携する重要性は、あらゆる分野に通じる話です。

連携の重要性が理解できていると、「教えて」と人を頼ることもできます。そういう人たちが集まり、それぞれの得意を生かしながら役割を果たしたら、ものすごい大きな成果になりますよ。そして、それができる人こそが「世の中を変える人」です。

大蔵:大学の学科は細分化しがちですし、文系・理系で分類したりもしますが、社会に出るとあらゆる分野からチョイスし、ミックスし、新しいものをつくるのが基本になってきますよね。

谷口:だからこそ国立高専では、従来のモノづくりの授業に加えて、起業や特許、情報セキュリティ、アートなど、別の分野の授業も取り入れています。

ものをつくったり起業をしたりするには、価値判断をするための知識が必要です。いくら自分では良いと思っていても、他国では犯罪に当たることだってあるわけですから、そういう発想を持つことは非常に重要です。

そういう意味で、リベラルアーツと言われる勉強もこれからはより求められるでしょう。「STEAM教育(※)」にも、Art(芸術・リベラルアーツ)が入っていますよね。

※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・モノづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念

だから国立高専では、一般教育の先生にも学生の卒業研究に入るように伝えています。「これは何の役に立つの?」と問いかけることで、学生が新たな視点から考えるきっかけが得られる。それこそが本当の意味の文理融合であり、STEAM教育です。専門性がないことに引け目を感じる先生もいますけど、そうじゃないんですよ。

大蔵:専門分野の狭い範囲内では限られたものしかつくれませんが、幅広い知識があったり、専門家との人脈があったりすれば、それらを融合して新しいものを生み出せる。そういう考え方を持った人材を育てるのが重要だと思います。

高専は学校自体がコンパクトというか、他の学科の先生の顔が見えるのがいいなと思います。何か質問すると「〇〇先生に聞いてみなよ」と教えてもらえる。僕は電子情報学科でしたが、機械工学科の先生と仲が良かったですし、本当にいろいろな人の意見が聞けたなと思います。

高専は価値観と人間性を築く場所でもある

大蔵:僕自身は高専の5年間で「境界線は誰も引いていない」ことを学んだ気がします。

例えば、プログラミングのテスト。プログラミングの授業は日本語なのに、問題文が英語だったんですよ。何の説明もない中で突然の英文に驚きましたが、思い返せばこういう出来事がいろいろありました。

先生と一緒にいろいろな経験をする中で、「こういう考え方の人がいるんだな」と知り、良いことと悪いことは表裏一体であることも理解できました。

そういう意味では、知識や技術以上に考え方や価値観、人間性を5年間で築き上げたように思います。

会社に入ってからは、それが高専と大学の大きな違いなのかもしれないと実感しました。もちろん人によりますが、高専出身者は上司や先輩の指示に対し、疑問を持つ人が多い傾向にあった。「これをやる意味はあるのか」を考え、場合によっては口に出す。それができる人材を育てられるのが、高専の良さだと思います。

そういう人たちに、さらに多様な分野の知識や人とのつながりをインストールしてあげられれば、かなり面白い人材が生まれるんじゃないかと思っています。

谷口:先生が学生の邪魔をしないことも重要ですね。問題が起きないように気を配らなければいけないけれど、ある程度は大目に見る。それは非常に大事です。

私が高校生の時、ほとんどできなかった物理の試験に75点もついていたことがありました。採点が間違っていると思い先生のところに行ったら、「最初の仮定は間違っているけど、論理は全部正しい。仮定があっていれば答えは出たから、そこを評価した」と言われた。だから物理を嫌いにならなくて済みました。

高専には希望がある

大蔵:今、「モノをつくる力」を高専で身に付けることは、15歳にどのような可能性を与えるでしょうか。

谷口:高専の良いところは、実験や実習で実際に手を動かして何かをつくる経験ができることです。

今はコンピューターで設計し、ボタンを押せば3Dプリンターで設計通りのものができる。でも、その前にまずは自分で手を動かす経験が必要だと私は思います。自ら手を動かさなければ分からないことはたくさんありますから。

例えば東京高専では、化学系の学生に対しても授業で旋盤の使い方を教え、学生が実際にブローチを作ります。そうやって自分で手を動かして何かができるのはとてもうれしいものですし、刺激も受けます。それこそがモノづくりの原点だと思いますね。

谷口:あとは、コンテストの存在も大きいですよね。コンテスト出場で単位が出る学校もあれば、部活のような位置付けの学校もありますが、いずれにせよ学生は熱心に取り組んでいます。

高専では、レポート提出に遅れることがあっても、コンテストの予選に間に合わない人はいませんから。

大蔵:わかります(笑)

谷口:そうやって期限がある中で、限られた予算で工夫して良いものをつくる。あちこちから買い集めた部品を使って高専生が作った人工衛星が、今もまだ宇宙で動いていたりもするんですよ。

大蔵:高専の全てのコンテストに共通するのは、必ず何かしらのモノをつくり、製品として形にすること。試作品を作り、実証実験をした上で、「これはこういう問題に対して役立ちます」と発表をする。社会でのモノづくりの超縮小版を学校の中でやっているイメージですよね。

谷口:その過程で学生はさまざまなことを学びます。いろいろな人の意見を聞き、一緒にものをつくり、うれしかったり悔しかったりという想いをする。そんな経験を積むことで、未知のことも「やってみようかな」と思えるようになるのです。

だからこそ、私は高専が日本の教育を変えると思っているのです。私たちがいなくなった未来を生きる人間を育てるのだということは、常に意識しなければいけないと思います。

大蔵:この先の30年で、日本の人口は1億2000万人から8000万人にまで減るといわれています。3人に1人がいなくなる計算です。

そんな未来の社会において、モノづくりはどのような意味を持つのか。そんなことを考えながら、その世界でコトを起こし、世の中を変えられる人材を育てなければと思います。

谷口:高専には希望があるんですよ。学生たちの可能性はどんどん広がり、予想もできないような展開をしたりもする。15歳からモノづくりを教える意味は、まさにそこにあるのだと信じています。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影] 澤圭太

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