神山まるごと高専のクリエイティブディレクターが山川咲から村山海優へ|就任に寄せて
神山まるごと高専のクリエイティブディレクターに就任しました村山海優です。「テクノロジーとデザインで人間の未来を変える学校」の実現に向け、開校二年目に突入する2024年4月より新任として取り組みます。今回は就任の経緯と自己紹介、これからやりたいことについてお話しします。
1. 就任の経緯
「学校のクリエイティブディレクター」への不安と決意
一般的に「クリエイティブディレクターがいる学校」は珍しいと思いますが、開校一年目の神山まるごと高専にとってそのポストは仕事内容も担当領域も整備されていない、道なき道をつくりながら進む役割です。そのポストを築いてきた当人の山川から直接この話の打診があった時は、正直不安が大きくありました。改めてこの学校への私の覚悟を問われている気がしました。「人間の未来を変える学校をつくる覚悟は本当にあるのか」と。Yesの返事を出すまでにそう長い時間はかからず、それは、開校以来、神山町で学生とスタッフが全身全霊で歩み、私たち神山まるごと高専が「100年続く創造的な学校」への一歩を確実に踏み出せたと確信できたこの一年があったからだと思います。
学校の人事にも、失敗を怖れずまずやってみる"β Mentality"
学校にとって20代の私をクリエイティブディレクターにすることは一見チャレンジングな選択肢ですが、学生主役の学校を掲げる本校において、神山の地で学生と近い距離で物事を捉えられる私がそれを務めることへの納得感もありました。「やったことがある」の経験を重視されがちな学校業界において、失敗を怖れずまずやってみる、その選択を取れる学校であること自体が、創造的な学校であり続けるために必要な要素だと感じています。山川からの打診は、本校のビジョンである「β Mentality」に立ち返る瞬間でもありました。
これは、私が神山まるごと高専への覚悟を決めた二度目の瞬間でした。一度目は、まだないこの学校に参画し、縁もゆかりもない神山町に移住した時のことでした。
2. 学校との出会い
原点は、「未来に繋がる体験づくり」
2022年3月開催の「神山まるごと高専 presents 未来の学校FES」に、前職のスタッフとして関わったのが始まりでした。同イベントの直後に、移住を条件とした転職の誘いをうけ、同年8月に神山町に移り正式にジョインしました。私自身は「子供たちの未来に繋がる原体験を作りたい」という想いから前職である電通ライブに入社し、ドバイ万博日本館の設計と制作に約4年間携わりました。開幕から閉幕までの半年間、世界中から毎日たくさんの子供たちが日本館を訪れました。一つの場所で多様な人やコトが出会い交わり、小さな心に種が蒔かれる瞬間をいくつも目にし、それを可能にする「リアルな体験」の力を確信した経験でした。そんな、自分の軸を再認識する経験をし帰国した直後、神山まるごと高専からの話がありました。自身の原体験は、どれも長い時間を過ごした学校ではなくそれ以外のところにあったことを思い返しながら、「学校こそ、たくさんの原体験が生まれるフィールドになるべきだ」と考え参画を決めました。
本気でこの学校に懸けるメンバーと、一緒に未来をつくりたいと思えた
その決断を最終的に後押ししたのは、他でもないこの学校で働く人々の本気度でした。大学時代、教職課程を履修したものの学校で働くイメージが湧かずに企業就職を選んだ私ですが、「未来の学校FES」のイベントで数ヶ月間神山まるごと高専のスタッフと働き、自ら未来を描き自らの言語でそれを語り現実にしようとする一人ひとりの姿に、純粋に勇気をもらい感動しました。その感情は徐々に「私もこの人たちと共に神山で未来を作りたい」という決意へと変わり、転職と移住を決めました。
3. 入職からやってきたこと
自分に向き合う受験体験の設計
入職から約2年間、学生募集活動の責任者として全国から中学生を集め40名の精鋭を選抜する入試づくりを行ってきました。15歳での進路選択は、自分で何かを選ぶ初めての経験となる人もいます。その中で、全ての中学生に「自分で選び、決め、行動し、飛び込む」そんな受験体験をしてほしいと考え、全国で説明会を開いたり、モノづくりや起業に触れるコンテンツ制作に取り組んできました。
特に注力したのは「マッチング重視の入試」。学校側が知識・能力・趣向性・人間力などを総合的に判断するだけでなく、学生にとっても本当にこの学校が自分にマッチしているかを考えられるものにしました。入試前のサマースクールや入試課題に取り組むことで、自分の強みややりたいことにじっくりと向き合い、「どう生きたいか」を徹底的に考え、そのために必要なアクションをとる時間が増えていく仕組みになっています。(神山まるごと高専入試詳細ページ)
やりたいことが既に決まっている中学生は多くありませんが、本校を目指し受験期に行った思考や行動の中で「やりたいことの方向性が見えてきた」「初めて自分についてこんなに考えた」という受験生の声を多くいただきます。また、残念ながら不合格となってしまった受験生からも、数ヶ月後に連絡をもらい、現在挑戦していることを教えてくれたり、そのきっかけが本校の受験にあったと感謝いただくことが一度ではなくありました。外からの不安に煽られてではなく、内なる野心によってドライブする受験期を多くの人に過ごしてほしいと願っています。見方によってはたった40名のための入試ですが、「人間の未来を変える学校」を共につくる学生を集うために必要なこととして、今後も取り組み続けたいと考えています。
4. これからのこと
失敗も含めて、学生が社会とつながる原体験を
今後は学生募集活動の他に、学生とともに「コト起こし」に挑戦したいと思います。学生が社会とつながる感覚を得ることや、失敗も含めてその原体験を得られる場所であるべきだと考えています。
テクノロジー×デザイン×起業家精神にリベラルアーツを加えた本校の授業では、専門的なスキルや知識を身につけるだけでなく、多様な価値観に出会いながら自身の考えを育む時間を、日々教員スタッフが工夫してデザインしています。また、Wednesday Nightやスカラーシップパートナー活動では、新しい価値を世の中に生んできた起業家や企業との出会いがたくさんあります。
この環境の中で学生が日々吸収したものを、自分の想いや考えを乗せて世界へ発露させるためアクションを応援したいと考えています。大きく考え、小さな試行錯誤を繰り返せる学生になってほしいと願い、自分が持つ経験やスキルを動員しながらも、聞き手にまわり学生のすぐ斜め後ろで応援し続ける役割を担いたいと考えています。
誰もがクリエイティブであれる組織カルチャーづくり
もう一つ、学校組織内に「創造的なカルチャー」を醸成することです。企業から学校に移り感じるのは、学校は企業に比べ構造的に新しく何かを始めることが起きにくい場所だということです。学校は、一度始めたら1日も止まることなく学生たちの人生を乗せて進み続けます。全寮制である本校はなおさら、土日も何かしら必ず起きます。また、構造上、基本的には一定のリソースの中で進み続けることが前提とされています。そんな環境での様々な要因が新しい取り組みを始める際にボトルネックになりがちですが、ビジョンを持ってこの場所に来ている教職員一人ひとりとじっくり話していると、新しいアイディアがたくさん生まれます。アイディアの段階で容易に白黒つけるのではなく、できる方法を考え、小さくでもやってみる、この学校で働く全ての人がフラットにそれができるカルチャーをつくりたいと考えています。
5. 最後に
「理想の学校」に生命を吹き込むように
今日ここで書いたことは、自分自身や学生、共に働く仲間、そして未来の教育をより良くしようと取り組む教育関係者のみなさんへの初志表明であります。また、ここで書いたこと以外にも、「人間の未来を変える学校」を目指す中で新しく必要となることが多く見えてくると思います。
学校は、変化をしながら長く続いていく生き物のような存在です。神山で、学生に・スタッフに・地域に誠実に向き合い、一つ一つの判断に意志を込め紡ぐ日々によって、この学校がいきいきと血が巡り続ける場所になると信じています。設立時に掲げたビジョンに向けて変化しながら進む、それは「理想の学校」に生命を吹き込むようなことだと、そんな想いで私はこの仕事に向き合いたいと思います。新米のクリエイティブディレクターですが、神山まるごと高専と共に応援してくださると嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いいたします。