【ロート製薬】「次世代の健康と応援」に取り組むロート製薬の参画へ込めた想い/スカラーシップパートナーインタビュー
まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。
神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。
企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付により、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。
神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
https://kamiyama.ac.jp/news/0309-01/
今回は、ロート製薬 代表取締役会長 山田 邦雄さんに、神山まるごと高専理事長の寺田親弘が、「”次世代の健康と応援”に取り組むロート製薬の、参画へ込めた想い」について伺いました。
一般用医薬品や化粧品などの「美と健康」にまつわる商品を世に送り続けているロート製薬。
「常識の枠を超えて挑戦し続ける」と掲げているロート製薬が、神山まるごと高専を通してどのような未来を見ているのか。ぜひご覧ください。
「次世代の健康と応援」に取り組むロート製薬の参画へ込めた想い
寺田:ロート製薬さんは、社会課題の解決に対してとても積極的な印象があります。なので、「どこかでお話できるタイミングがあれば」とずっと思っていました。
実は、山田さんとは10年近く前に一度、G1サミット(※今後の日本・世界を担っていくリーダーたちが学び交流するプラットフォーム)でご挨拶をさせていただきましたよね。
そのご縁もあり、快くお話を聞いていただき感謝しています。
スカラーシップパートナーは、最終的には11社となり 第一期生の学費無償化が決まりました。ただ、山田さんとお話させていただいた時は、まだ2〜3社しか決まっていない状態で。
正直、「無償化を目指すと言ったものの大丈夫だろうか?」と、とてつもない責任感と重圧がありました。そんな中、明るく抜け感のある言い方で「いけるんじゃないかな」という一言をいただき、めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えていますね。
その後、取締会や経営会議などで議論もあり、途中「なかなか難しいかも」という時期もありましたよね。その際、神山にも足を運んでいただきました。改めて、当時はどのようなお気持ちだったのですか?
山田:数ある高専の中で「なぜ神山なのか?」という意見や、これからどんどん変化する時代に、本当にサステナブルなのかという心配の声もありました。
その中で、現地に足を運んだり、社員が寺田さんから直接メッセージ伺う機会もあり、寺田さんの涙溢れる力強い想いに胸を打たれました。
ロート製薬には製品を生み出す工場が複数あります。そこには、高専出身の子も多く働いています。今回の神山まるごと高専の話は、特に彼らが「嬉しい」「誇りに思う」と喜んでくれましたね。
若いうちから専門性を追求して勉強するというのは、とても面白いプロジェクトですよね。また、「家庭環境や経済状況に左右されることなく学び・志すことができる学校」というのはとても意義があると感じています。
教育を通して社会課題に向き合うチャンスを
山田:私たちもなかなか手を伸ばせなかったのですが、元々、若い人たちの教育や人づくりに何か貢献したいという思いはずっとありました。
かつての日本の環境は非常に恵まれていたと思うんです。バブルもあり、円高でもあり、パスポートさえ持っていたら世界中どこでも行けるようになるんだ!という時代でした。
その反面、いい大学、いい就職先のための受験勉強。本質的な価値というより、枠の中で隣の人と競争して「点がよかった、悪かった」がゴールになっていた。
僕らの世代は「組織の中で生きていくこと」が当たり前になっていました。
そして頑張って就職した先にある大手企業は、ある程度、仕組みも完成されているので個人がそこまで頑張らなくても、簡単に会社は潰れない。
ただ、そうやって仕組みに合わせて生きていると、社会課題に向き合うチャンスも巡ってこないし、本当の意味での成長はないと思うんです。
私たちの子どもや孫の世代になった時、日本はどうなっているのか?彼らは“世界から必要とされる人材“になれているだろうか?そんな不安を感じています。
様々な社会課題に向き合い解決しようと努めることが、日本だけでなく世界への貢献に繋がりますよね。何より、自分に自信が持てるようになる。そこに、子どもたちは新たなやりがいや生きがいを見つけてほしいと思っています。
寺田:本当、そうですよね!僕自身のスタンスとしては、マクロに目を向けながらも、マクロな動きはできないなと思うんです。何か大きなことをするよというよりも、自分の持ち場や自分のアジェンダで頑張るしかない。その中で「やれることはやろう!」と、コミットする想いを持っています。その積み上げが、マクロ的な影響を帯びるのかなと。
例えば神山まるごと高専でも、いつの間にか数多くの企業やビジネスパーソンを巻き込み、プロジェクトになってきている。それがひとつのケースとして波紋となり、他の学校が変化することに繋がっていけばいいなと思っています。
小さくてもいい。「尖ったユニークなもの」を目指していけば、社会を前に進める思いがけないパワーになる。学生にもそう感じてほしいですね。
「自然の中にこそ自由がある」神山の里山に感じる期待
山田:日本には「仕組みに乗ることを求められる世界」がまだまだあると思うんです。そういう意味では、子どもたちにはもっと「自由」を与えてあげたいですね。
法律や規制も、ひとつひとつはもちろん良かれと思って作られているけれど、そこにがんじがらめにはなってほしくはない。新しい学校では、なるべくそういう規制を減らして解放してあげてほしいです。
寺田:我々も、「不完全でもいいからとりあえず出そう」という意味を込めて、ベータ(β)メンタリティという言葉を作って大切な考え方の一つにしています。余白は必要ですよね。
山田:せっかくの神山町なので、自然の中に自由を感じてほしいですね。僕たちが小さい頃は、誰のものかが分からないような野原がごろごろあり、よくそこで遊んでいました。
大自然の中で、学生の皆さんも自由に歩き回ったり、地域の人との交流を大切にできたり、そんな風になれたらいい。都会の中ではどこでも自由に…という訳には、なかなかいかないですからね。遊び心のある奔放さを期待しています。
寺田:山田さんとお話していてもそうですし、ロートさんの社員の方とお話していると「とてもオープンな社風だな」と感じます。通ずるところがありますね。
山田:今や、前例通りやっていればうまくいく時代ではないですよね。むしろ、新しい発想、新しいチャレンジは必然。そこに管理しすぎない余白や自由度は不可欠だと思っています。何に価値があるのか分からないのなら、それを考えたり、作ったりするのが仕事。
子どもたちには、そんな自由度を大切にしながら、思いっきり自分の感性を発揮してほしいです。
起業家が当たり前の選択肢の一つに
寺田:ロート製薬として、学生たちとどのように関わっていきたいとお考えですか?
山田:先ほどもお話しましたが、我が社は高専出身の社員が多く働いています。起業家講師の方々とは少し角度が違う、身近な「先輩」という形で触れ合っていけたらいいですよね。
私どもは、ライフサイエンスの領域に関して、農業から細胞治療まで様々なことを手掛け始めています。そのリソースも活用してもらいながら、お互いの可能性を広げられることを期待しています。
寺田:スカラシップパートナーの社員の方を「先輩」と捉えるとは、確かにそうですね!
そういう感覚はいいですね。
ちなみに山田さんは、15歳の時、どのような学生だったのでしょうか?
山田:ちょうど灘高校に入学して、自我に目覚め充実していた時期でしたね。登山やスキーが好きで、今の時代は考えられないかもしれないですが、携帯もGPSもない中、バックカントリーみたいなことをやっていました。また、万博がきっかけで世界を意識し始めたのもこの頃でしょうか。工業化が真っ盛りで、公害が問題視されてきたこともあり、環境への興味もこの頃、目覚めました。
寺田:自分の進路を腹落ちして決めたのは、どのタイミングだったのですか?
山田:学者を目指していた時もあったんですよ。ただ道半ばで、「学者として一流にはなれない」と思ったタイミングもあり、「父の仕事を引き継いでいこう」とすっぱり諦めました。
その頃は、ロート製薬を背負って立つんだという大きな覚悟というよりは、「父がやっているようなことをやればいいんだ」という感じでしたね。
寺田:軽やかですね、分かる気がします。僕自身、父が起業家だったので、大それたことをしようという感覚で起業はしたわけではないんです。「社会に対してインパクトのあることをしようと思ったら、自分で会社作って何かするんでしょ」と、当たり前のように、小学生の頃から思っていました。すごく気負っていたかというと違うので、近い感覚だったかもしれないですね。
今回、起業家講師を招いた狙いのひとつ。それは、15歳から起業家に触れることで、「起業が普通の選択肢のひとつである」と感じてもらうことでした。
山田:20年後、30年後は誰も想像できない未来になっているはず。間違いなくその時代を生きているのは彼らで彼らが主役。想像がつかないほどの活躍を期待しています。
寺田:神山まるごと高専が皆さんに共感を得られたのは「品川高専」でも「渋谷高専」でもなかったからだと思うんです。今日、山田さんとお話させていただき、「自然は自由」という素敵なキーワードをいただきました。今日はありがとうございました。
[取材・文・構成] 池尻浩子 [撮影] 澤圭太