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【MIXI】「天才を世に出す挑戦を応援したい」MIXIと同社創業者・笠原健治の想い/スカラーシップパートナーインタビュー

まるごとnote編集チームです。「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

神山まるごと高専では、学費無償化を目的とした「スカラーシップパートナー」を立ち上げました。

企業からの拠出金および長期契約に基づく寄付により、奨学金を安定的に給付する日本初のスキームです。

神山まるごと高専の奨学金基金が完成 全学生を対象に、学費無償の私立学校が実現
https://kamiyama.ac.jp/news/0309-01/

株式会社MIXIは、同社と同社創業者で取締役ファウンダーの笠原健治さんがそれぞれ資金を拠出し、スカラーシップパートナーに参画してくださいました。

その決断の背景にあるのは、「天才を育てたい」という同社と笠原さんの想い。神山まるごと高専理事長の寺田親弘が、笠原さんにお話を聞きました。

天才が一人でも生まれれば、世の中は変わる

寺田:笠原さんはIT業界のレジェンドであり、MIXIも笠原さん自身も社会的なことに対する意識が強い印象があります。なので、もしかしたらスカラーシップパートナーの提案は刺さるかもしれないと思い、説明のチャンスをいただきました。

笠原:神山まるごと高専の話は以前から耳にしていましたが、改めて概要をお聞きして、直感的に非常に良い試みだと思いました。日本の閉塞感を打破できる可能性があると思いましたし、成功した起業家が学校をつくることにも共感しましたね。

株式会社MIXI 取締役ファウンダー 笠原 健治さん

まだ言語化はできていないのですが、僕はIT業界で起業してから今に至るまでの過程で学んだことがいっぱいあります。きっと寺田さんも似た体験をしてきたのでしょうから、寺田さんが旗を振ってつくる学校には、そういった学びが還元されていくのだと思います。

それを若い人たちに伝えることで、もっとすごい人たちが生まれる可能性もある。その循環がすごくいいなと。

スポーツや芸能の世界には幼少期からプロを目指して学ぶ機会がありますが、起業家も同じように、若い頃から起業家教育を受けるチャンスがあることで、良い素材が天才に育つ可能性があると思っています。起業家の場合はあまりに早過ぎてもダメだけど、15歳というタイミングは非常に良いですよね。

寺田:笠原さんにお話をした際、「経営会議では意見が割れるかもしれない」とおっしゃっていました。実際に意見は割れたとも聞いています。

貴社に限らず、スカラーシップパートナーの件は各社とも経営会議でさまざまな意見が出たようです。「一つのテーマでこんなに長く議論をしたことはない」とおっしゃる企業もいましたが、良くも悪くもすんなりいかない。

企業によって体力の多寡があるとはいえ、10億円は大きな金額です。事業や売上に直結しない社会的なテーマにそれだけのお金を張るのは難しい問題であり、かといって「できません」とあっさり見送るほど軽いテーマではない。「やらなくていいのだろうか」という逡巡があるのだと思います。

笠原:そうですね。

寺田:そんな中、MIXIさんは、会社と笠原さん個人が資金を拠出するかたちでスカラーシップパートナーに参画してくださいました。第一報を聞いた時は、チープですが、率直に「かっけー」と。これは、なかなかできないですよ。僕も含め、起業家には分不相応の資産があって、それはみんな分かっているけれど、なかなか笠原さんのようには使えない。そんな感覚があったので、もう、ただただ「すげぇな」と。
それだけ笠原さんからは刺激をもらいましたね。

笠原:僕は、天才が一人でも生まれれば、世の中は結構変わると思っています。スティーブ・ジョブズにしても、イーロン・マスクにしても、いち個人が国や世界を変えていますよね。

神山まるごと高専は、そういう天才を世に出す挑戦だと思っています。熱意を持って旗を振っている人たちがいるのであれば、僕個人としてはぜひ応援したいと思っていました。

藤井聡太さんがプロ棋士としてデビューした頃、「大事な逸材として、将棋界みんなで彼を守り、育てていかなければいけない」といった趣旨のことを羽生善治さんが言っていたのが印象に残っていて。まさにそんなイメージで、野心的な天才の卵である学生の皆さんが大きく育つお手伝いができればいいですね。

ユーザーが増える快感を味わうために、ものづくりを続けている

寺田:今回の意思決定に対して、MIXI社員の皆さんからはどのような反響がありましたか?

笠原:高専出身者やエンジニア・デザイナーの社員を中心に、喜んでくれていますね。若い社員の共感度が特に高い気がします。

寺田:本件を担当してくれた方も高専出身でしたね。笠原さんは、高専出身者にどのような印象がありますか? 

笠原:尖った人が多いですね。15歳というまだ若い時期に、好きなことや将来を見据えて高専を進学先に選択しているわけですから。

高専出身者はエンジニアに多いですが、「これがやりたい」「こういう世界を作りたい」といったこだわりが強い傾向にあるとも思います。新しい技術に食いついていく、好奇心旺盛な印象が強いです。

寺田:笠原さんご自身は、ものづくりの面白さをどうお考えになっていますか?

笠原:ものづくりにはいくつかのフェーズがあって、最初と4番目くらいのフェーズが特に楽しく、ものづくりの醍醐味だと思っています。

まずは、「何をやるか」が決まる最初の瞬間。アイデアの発案者は自分だったり社内の仲間だったりしますが、いずれにせよ「これをやればいいんだ」というのが分かる瞬間があります。

それはうれしくて、灰色だった世界に楽しいことが生まれたような、生きがいが得られるような感覚があります。「これをやればいいんだ」というのは張り合いにもなりますし、そのために何をやればいいかを考え続けるのも楽しいです。

次にものをつくる準備の時期があり、これもまた楽しいですけど、その後実際にリリースした後は大体うまくはいきません。「絶対いけるに違いない」と思っていても、全然ダメだったりする。

ただ、多少当たっている部分もあって、もがく時期があり、チューニングするうちにピントが合ってきて、飛距離が出始める。仮説通り喜んでくれるユーザーが増えてくる瞬間があって、それがどんどん広がっていきます。

このフェーズが一番楽しいですね。「これいいじゃん」と言ってくれる人が増える瞬間は快感です。その感覚を味わいたくて、何度でもものづくりをやりたいなと思う。

寺田:SansanはBtoBが主体ですけど、似たところがあるなと思います。「これが大切なんじゃないの?」っていう瞬間はめっちゃ楽しくて、その後は大体つらいけど、そこを乗り越えて価値を生んでいる実感が得られるとめちゃくちゃ楽しい。それを繰り返しているというのは、なるほどなと思います。

笠原さんは、どういうところからサービスの着想を得ることが多いですか?

笠原:いくつかパターンはありますね。『家族アルバム みてね』は自分の子育てが原体験となっていますが、学生時代に立ち上げた求人サイト『FINDJOB!』は原体験もありつつ、当時きていたインターネットを使って何ができるかを考えた結果として生まれました。

最近注力しているコミュニケーションロボット『Romi』も、AIの勃興を見て、「AIが進化したら何ができるか」という発想で考えています。

時代の変遷を見つつ、新しい技術やプラットフォームに対して、「これを使って何ができるのか」を考えることは多いかもしれませんね。それが一番簡単に新しいユーザー体験をつくる方法だと思っているので。

神山まるごと高専には、最新の技術や最前線で活躍する人たちが集まると思うので、そういう意味でも期待ができるなと思います。

パソコンを買った大学3年生「これが起業になればいいな」

寺田:笠原さん自身は、どんな15歳でしたか?

笠原:水泳部で、水泳ばかりやっていましたね。
あとは歴史が好きだったので、歴史に残るようなことをしたいという想いもちょっとはありました。

寺田:野心的な少年ではあったんですね。

笠原:何も考えずにみんなと同じように受験して、学区内の普通の公立高校に行っていましたけどね。

寺田:起業を意識し始めたのはいつごろですか?

笠原:大学2年生くらいでしょうか。大学に入ってからは、将来何をすればいいかがわからずに悩んでいました。当時は打ち込むものもあまりなくて、日々何の目的もないような気持ちで生きていた気がします。

そんな頃に、雑誌か何かで孫正義さんのインタビューを読んで、ふと「起業って道もあるんだな」と思った。でも、どういった事業で起業すればいいかはわからずにいました。

転機になったのは、大学3年生になって入ったゼミです。そこでマイクロソフトやアップルの話を聞き、「ITがすごいんだな」とわかった。ゼミでは「OS」や「ブラウザ」といった言葉が出てくるけど、それが何なのかがいまいちわからず、学校の情報室に通っているうちに、「インターネットで起業するしかない」という気持ちになったように思います。

寺田:好きでインターネットを触っていたというよりは、インターネットがくるだろうと思って触り始めたんですね。

笠原:そうなんですよ。恥ずかしながら、パソコンを買ったのも大学3年生になってからです。

それで、最初は起業というより、サービスを作ることをスタートに個人事業で始めましたね。「これが起業になればいいな」ぐらいの気持ちはありましたけど。

寺田:笠原さんといえば、学生起業家で一気に成功した人というイメージでした。ちょっと意外ですね。

もっと大胆に、もっと野心的に

寺田:神山まるごと高専の学生たちの中にも、将来にモヤモヤとしたものを抱えている人がいます。何かアドバイスはありますか?

笠原:小さくまとまらずに、大きく大胆にいってほしいです。やりたいことが見えている人はとりあえずそれをやっていけばいいと思いますが、まだ見えていない人は慌てて結論を出そうとしたり、手近なところで手を打ったりする必要はないんじゃないかな。

まだまだ若いので、なるべく大きな距離を飛ばせるように、発想を広げながら、焦らずやっていけばいい。その積み重ねが、意外とすごいことになることもあると思います。

寺田:起業家育成といっても、みんなが社長になればいいわけではなく、アントレプレナーシップを発揮してほしいというのが僕らの考え方です。そして、何に対してアントレプレナーシップを発揮するかは、学生たちが向き合わなければいけない問いです。

「小さくまとまらない」という笠原さんのメッセージにも通じますが、「モノをつくる力があれば、トライアンドエラーができる」というのが、われわれの仮説。その精神性とトライアンドエラーのサイクルがうまく噛み合うような内容を企図しています。

寺田:最後に、MIXI奨学生および神山まるごと高専の学生たちにメッセージをいただけますか?

笠原:面白い環境に飛び込んでいると思います。全寮制の自然豊かな場所で5年間を過ごす選択をしたのは、それだけですごいチャレンジです。

そこをベースに、もっと大胆に、もっと野心的になってもらえるといいんじゃないかなと思います。

寺田:笠原さんは『FINDJOB!』に『mixi』、『みてね』、最近では『Romi』をつくってきた方で、「すごい」と思う学生もいると思いますし、「すごい」と言われることも多いと思います。ご自身ではどう思いますか?

笠原:まだまだこのままじゃ終われないと思っています。

まずは今やっている『みてね』と『Romi』を仕上げていきたい。『みてね』は世界一を目指せる可能性があるサービスなので、「世界一までいきたいよね」というのはチームメンバーともよく話しています。『Romi』はAIの進化の恩恵を受けやすいポジションにいるので、これからが楽しみですね。

そこから先は、また別の新しい事業を立ち上げることも目指していきたいと思っています。全然、まだまだこれからですよ。

[取材・文・構成] 天野夏海 [撮影]澤圭太