メルカリに聞く。ダイバーシティー&インクルージョンによって広がる、神山まるごと高専の未来
まるごとnote(神山まるごと高専(仮称・設置構想中)noteアカウント)編集チームです。
「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育てる、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。
※設置構想中のため、今後内容変更の可能性があります。
この度、神山まるごと高専と、フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリ(以下メルカリ)は、「ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)推進における学校教育パートナーシップ」(以下、本パートナーシップ)を締結しました。
プレスリリース
メルカリと神山まるごと高専(仮称)、「ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)推進における学校教育パートナーシップ」を締結
神山まるごと高専は、メルカリのD&I推進の知見を学校教育に取り入れ、「高専関係者向けのD&Iに関するワークショップ・イベントの開催」、「無意識バイアスワークショップの 開催」、「開校後のD&I推進に関する特別授業の設計、及び社員講師派遣」などの取り組みを共同で行っていく予定です。
今回は、メルカリのD&I施策を推進する、Diveristy & Inclusion Teamのマネージャー・寶納 弘奈(ほうのう ひろな)さんと、神山まるごと高専のクリエイティブディレクター(仮称)の山川 咲(やまかわ さき)さんにお話を聞きました。
メルカリと神山まるごと高専は、なぜパートナーシップを結ぶのか。日本全体で推進が求められているD&Iの背景を振り返りながら、生徒の未来像と社会に対する影響について聞きました。
D&Iは「人間の未来」を変える取り組み
ー今回のパートナーシップを組まれた背景について教えてください。
クリエイティブディレクター・山川咲(以下、山川)さん:神山まるごと高専では「テクノロジー×デザインで、人間の未来を変える学校」をコンセプトに、「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成を目指しています。
今は右肩上がりの経済成長が止まって、「お金=幸せ」という時代が終わりつつあります。その中で、どう自分や仲間が幸福感を持てるか、がこれからもっと重要になっていく中で、多くの人を幸せにするサービスやプロダクトを作るためには、様々な背景や価値観をもった人たちを想像する必要があるし、自分たちの組織が多様性を持つことも大切です。
寄付の相談をしてきた中で、話を重ねるほどにメルカリという企業の目指している未来に共感する部分が強くあり、これからの時代を作る起業家の事業作り・組織作りにおいて、D&Iが必須な要素となるなかで、日本のスタートアップの中で特にD&I推進に積極的に取り組まれてるメルカリさんと、カリキュラムや学校作りを、ご一緒できたらと考えるようになりました。
山川咲 神山まるごと高専(設置構想中)クリエイティブディレクター
CRAZY WEDDING創設者。1983年東京生まれ。大学卒業後、ベンチャーのコンサルティング会社へ入社。退職後に単身オーストラリアへ。「意志をもって生きる人を増やしたい」と考え、2012年に業界で不可能と言われた完全オーダーメイドのウェディングブランド「CRAZY WEDDING」 を立ち上げた。2016年5月には毎日放送「情熱大陸」に出演。その後、産休・育休を経てIWAI OMOTESANDOの立ち上げに携わる。2020年3月27日にCRAZYを退任し独立。
メルカリ・寶納弘奈(以下、寶納)さん:メルカリは、IT・STEM業界——— 科学、技術、工学、数学を用いる業界——にあるジェンダーギャップなどの社会課題解決に対して、企業や学校教育、政府など様々なフィールドのステークホルダーを巻き込む必要性を感じています。
メルカリは採用ページでもD&Iについて紹介している
その中で、神山まるごと高専で育っていく、起業家やモノづくりに関わるリーダーたちが、D&Iへの理解・共感を持つ未来はまさに目指したいところ。
なぜなら、起業家のようなリーダーの方々には、自分とは違うバックグランドを持った人を巻き込み、物事を進めていくプロセスが必ず訪れるからです。全員が同じような価値観を持っている場合なら簡単に決められることでも、背景や置かれた立場が違う人たちとは合意形成に時間がかかるかもしれない。
そうした状況の中で、嫌々協働するのか、お互いの違いを活かしながら進めるのか、自分たちの姿勢は選ぶことができます。自分とは異なる他者と向き合うことで、活動の質は変わっていきますし、出せるインパクトにも大きな差が生まれるんじゃないでしょうか。
企業と学校という違う立場から、一緒にこの社会課題に取り組める、有意義なパートナーシップだと考えています。
寶納弘奈(ほうのう・ひろな)さん 株式会社メルカリ Diversity & Inclusionチームマネージャー
異文化コミュニケーショントレーナーになるべくバーモント州の専門大学院に在学中から、教育非営利団体VIAでプログラムディレクターとして活動。卒業後はカリフォルニア州立大学バークレー校で異文化トレーニングスペシャリストとして勤務。帰国と同時に、大手通信企業のグローバル研修担当になり、その後メルカリに入社。D&Iチームを設立し、無意識バイアス研修や異文化コミュニケーション研修を作成。女性やLGBT+コミュニティのメンバーを対象としたソフトウェアエンジニア育成プログラム「Build@Mercari」、組織横断の社内委員会「D&I Council」などの施策を推進し、「LinkedIn:今、働きたい会社」トップ10に選出。専門分野はD&I組織戦略、異文化コミュニケーション&コンフリクトマネジメント。青山学院大学学士(国際政治経済)、SIT Graduate Institute修士(異文化サービス・リーダーシップ・マネジメントコース)。
山川さん:神山まるごと高専にD&Iを導入する理由を、もう少し大きな観点で語るとすれば、それが「人間の未来を変えること」に直結していると確信したから。
以前、別の取材でひろなさん(寶納)が話されていた「D&Iという考え方自体が、公民権運動、市民権運動、平和教育、人権教育など、長い歴史の中で人々が不平等と闘い、醸成されてきたコンセプト」という一説が心に響いています。
人間は、違いを理由に争い合ってきた過去から、自分たちの間違いに気づき、立場が違う人たちの幸せを願えるように、徐々に進化してきている。そうした歴史を踏まえて、この時代に神山まるごと高専がD&I推進に取り組むことは、人間の成長をさらに進ませ、本当に「人間の未来を変える」学校作りに繋がるんだと思えました。
自分自身の多様性に気付いていく
ーD&Iを推進することで実現する未来と、神山まるごと高専の目指す未来は合致しているんですね。では、実際カリキュラムや学校運営には、どのようにしてD&Iを入れ込んでいくのでしょうか。
山川さん:まずはD&Iというコンセプトについて知っていくこと、理解することがすごく大事だと思っているので、知識を教える時間は作っていきたいと思っています。ただ、カリキュラムではない、カルチャーや日常生活の部分で、D&Iを扱っていくことこそ重要だと思っていて。
私も少しずつ学んでいる最中ですが、D&I推進の本質は自分の内面に気づいていくことかと思い始めているんです。他の人や社会の多様性を理解するためにも、まず自分の中にある無意識的な何かや、誰かを「違う」と感じる自分自身を認知することが重要じゃないか、と。そこに意識を向けるために、自己と対話するカルチャーみたいなものは育んでいきたいと思っています。
寶納さん:D&Iを推進するにあたって、自分の内面に気づいたり葛藤することは大切だと思います。
山川さん:さらに、そうした多様性への理解がある学校を作っていくためにも、まずは、私たち神山まるごと高専の創業メンバーをはじめ、学校作りにコアで関わる人たちから、より多様性のある組織に変化していく必要も感じています。
メルカリさんと関わり始めて1ヶ月で、見るものや感じることが少しずつ変わって、D&Iという観点でいうと、まだまだできることの余地はたくさんあったなと思い始めてます。
私たちや関わる先生がそれを体現せずに、生徒に対して「多様性は大事だから学んで」と押し付けても、深くは伝わらないでしょう。教える側が学び続け、変化し続けていく体制を作ることが大切だろうと感じています。D&Iを学んで教える、ではなく多様性を私たち自身が楽しむというか。
寶納さん:学校という環境では、先生は教える側、生徒は学ぶ側というようにそれぞれに明確な役割がありますよね。でもD&I推進に当たって、その意義を一方的に教えることは成り立ちません。お互いを理解し合い、お互いの違った一面に気づき合うような時間や場づくりが、多様性への理解に繋がるからです。
「先生なんだからD&Iについてこれくらい知ってるべき」とか「(生徒は)こういうフレームワークの中でD&Iを学ぶべき」という期待値でお互いを縛るのではなく、お互いまだまだ知らないことがある前提を持って、一緒に学んでいく活動にしていきたいですね。
ーなるほど。また、寶納さんは先ほど、D&Iの推進には、社会のさまざまなステーホルダーを巻き込む必要があるとおっしゃいました。その為にはどのようなことが必要でしょうか?
寶納さん:今回のパートナーシップは、D&I推進自体が目的ではありません。本来目指すところは、社会問題の解決であったり、IT・STEM業界や教育現場における構造的不平等や格差を是正していくこと。まずは、神山まるごと高専で取り組むD&I施策から、その大前提が抜け落ちないようにしたいと思っています。
また、D&I推進には唯一の解がないので、きっと取り組みを進めていくうちに、上手くいかないことが学校内外でたくさん出てくる。そうなった時に「私たちの活動は正しいはずなのに」と頑なになるんじゃなくて、失敗から学ぶマインドセットでいることが大切。
さらに、神山まるごと高専とメルカリだけで取り組むのではなく、周りの方々の力を貸してもらいながら進めることも重要です。上手くいくためのアイディアやフィードバックをいただきながら、自分ごととして一緒に解決を目指してもらえるのが理想。それこそが、社会課題解決の在り方だと捉えていただけるような、社会に対して開かれた取り組みにしていきたいですね。
D&I推進によって、社会課題の解決とビジネスは両立できる
ーD&I推進に取り組む神山まるごと高専で育つ生徒たちは、社会においてどんな存在になっていきそうでしょうか。
山川さん:経済合理性の強い社会の中では、お金を稼ぐために社会や会社、周囲の人たちと同質であることが求められてきました。でも、今はそうじゃないことが当たり前になりつつある。違いを楽しんだ方が物事を上手く進められるし、みんなが幸せに長く働けるというのが、感覚として分かってきてるんじゃないでしょうか。
知識として多様性の価値を知ってるだけじゃなくて、5年間の学校生活で実際にその価値を体験したリーダーたちが生み出す事業や取り組みは、多くの人を幸せにする可能性があるはず。そこに人が集まり、世の中に広がっていく未来にとてもワクワクしています。
寶納さん:神山まるごと高専は1学年40名で、数としては少なく感じるかもしれませんが、一人ひとりが関わる人たちに影響を与えていくとなれば、社会にもたらすインパクトは無限大。D&Iを大切にするマインドセットの人が増えるということは、多様なバッググラウンドを持つ人が活躍しやすい社会になるのを大きく後押しすることだと思っています。
また、D&I推進は「ビジネス戦略のためにやるもの」「取り組むコストが大きいもの」と言われますが、本質的には逆。D&Iを推進する目的は「社会課題の解決」であり、「社会課題の再生産により将来的に発生するコスト」を抑える活動ともいえる。
神山まるごと高専の卒業生の存在が「D&I推進(=社会課題の解決)とビジネスは両立できる」という強いメッセージになることを、私は期待したいと思っています。
(写真撮影のため、マスクは外しています)
[取材構成編集・文] 水玉綾、佐藤史紹、林将寛 [撮影]澤圭太
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