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【まるごと高専円卓会議レポート】時代を変える人間を輩出する、松下村塾のような学校に

まるごとnote(神山まるごと高専noteアカウント)編集チームです。
テクノロジー×デザインの教育で、人間の未来を変える学校、神山まるごと高専に関する情報を伝えています。

2月15日(月)に「学校はどのように人間の未来を変えるのか」をテーマに、参加者と共に高専を作るオンラインイベント「まるごと高専円卓会議」の第一回目を開催しました。

第一部は、プロジェクトメンバーである、神山まるごと高専 理事長の寺田親弘さん(Sansan株式会社CEO)、学校長の大蔵峰樹さん(ZOZO元CTO)、クリエイティブディレクターの山川咲さん(CRAZY WEDDINGの創業者)に加え、ゲストには東京大学大学院工学研究科教授の松尾豊さんNEWPEACEの代表高木新平さん作家・エッセイストの島田彩さん、モデレーターにBusiness Insider Japan編集長の伊藤有さんの4名をご招待し、パネルディスカッションを開催。

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イベントの後半第二部では、参加者全員参加型の討論会を実施しました。本記事は、参加者からいただいたコメントを各テーマの末尾にてご紹介していきます。

皆さんと共に作る、神山まるごと高専。
一体どんな意見が飛び交ったのでしょうか。高専という仕組みを活かしながら、世界を変えられるような人材を輩出していいく教育の可能性とは?

学校業界における、神山まるごと高専

伊藤さん:本日はよろしくお願いします。神山まるごと高専は、「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」と掲げていますが、先生と生徒皆さんが自立的に動いていくには、何が必要になりそうですかね。

高木さん:僕は学校って、「ブランド色が強い業界」と捉えているんですよ。例えば進学校なら、東大や京大に行ける人が偉くて、そこを目指すのがステータスになっている。そんなブランド色が強い学校業界で、このビジョンに面白い人を巻き込んでいくには、知恵を働かせる必要がありそうですよね。

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株式会社NEWPEACE代表 高木 新平 さん 

山川さん:それって、どういうこと?

高木さん:3つくらいポイントがあるんじゃないかと思ってて。1つ目は、「人間の未来」がキーワードかなって。僕は1987年生まれで、失われた20年・30年、「ゆとり」と言われて育った世代なんです。何も失われていないはずなのに、失われたって決めつけられることにずっとムカついていたんですよ、髪の毛の色を変える度に「お前はゆとりだからな」と言われますし(笑)。

ただ、ネガティブな社会の設定を引き継ぐから、「失われた」「ゆとりだ」と言われるわけで。ネガティブな設定を変えたいと思って、創業時から「20世紀からの解放」というテーマを掲げて、新しいビジョンやコンセプトを応援する仕事をしていますが、きっと誰しもが、変えたかった過去があるはずなんです。「こんな過去を変えたかった」という思いの数だけエネルギーになると思うので、神山まるごと高専がその受け皿を担えると良いですよね。

伊藤さん:なるほど、それぞれの変えたかった過去を、まさに変えた学校を作る、と。

高木さん:そうですね。2つ目は、「手を動かすことの方がかっこいい」という価値観を発信していくこと。今って20世紀的な「何かを考える方が偉い」「頭が良さそう」という風潮があるじゃないですか。

でも、世の中のトレンドとして、エンジニアやデザイナーの価値にスポットが当り始めているように、手を動かして作れる人の価値は確実に上がっている。でも今ある学校のコンセプトは、そんな時代にまだついてきてはいない。だからこそ、神山まるごと高専が、ここにスポットライトを当てられる、最初の学校になるんじゃないですか。

実際に手や体を動かす人をどんどんエンパワーメントして、「それがかっこいい」って伝えていく。社会と接続している高専だからこそ、「手を動かせる人が偉い」という価値観を引っ張っていけるのは面白いと思いますね。

寺田さん:僕もそう思いますね。リーダーシップのある人が、強い意見を言えることは確かにすばらしいけど、あまりにも強調されすぎているんじゃないかって。すごい意見以上に、気づいたら人に使ってもらえるものを作れる人の方が実はすごいんじゃないか、と。僕自身への戒めとしても共感します。

高木さん:3つ目は、ゆとり教育を総括してほしいな。僕ら世代はいつの間にか、ゆとり教育という実験のモルモット化され、失敗だったかのように扱われていますけど、本当にそうだったかは分からないじゃないですか。

最近重要視されるようになった創造性教育を、この学校から実現することができれば、ゆとり教育を夢見た人たちが応援してくれると思うんです。ブランドがある学校にはそんなこと絶対できないんで、そこに神山まるごと高専の勝ち筋がありそうですよね!

《イベントの参加者のコメント》

「凹の部分を矯正するのではなく、テクノロジーの力で生きやすくして、凸の部分を思いっきり伸ばす場になると良いですね。標準的な人材を育てるのではなく、突き抜けた人材を育てるられるように。日本の教育現場がだめにしている人材を輝かせる場になってほしい!」

「手が動すことで人は鍛えられると思います。動いた結果、自分の思い通りの結果にならないとしても、次良くするために考えていけばいい。そうした基礎技術を早い段階から教えていけると良さそうです」

今の時代だからこその「高専の素晴らしさ三か条」

伊藤さん:次に、高専に通うことの価値やポテンシャルについて伺えたらと思います。普段、大学教授として指導もされている、松尾さんいかがでしょうか。

松尾さん:高専はハードウェアで作ることを学ぶので、最近のAIをはじめとした技術的な進歩と、親和性が高くなっていますね。グローバルに見ても、スタートアップで活躍する人は、若いうちから技術を身につけている。15歳という年齢から、高専という独特のシステムに身を置き技術を学ぶことは時代に合ってきていると思います。

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東京大学院工学研究科教授 松尾 豊 さん 

伊藤さん:確かにそうですね。

松尾さん:「高専の素晴らしさ三か条」を考えてみました。1つ目は、実際に手を動かすことが優先されること。触って、試しに何かを作ってみるとか。時代が複雑になればなるほど、理論を学ぶよりも先にやってみる方に価値が上がっていくので、時代とも合っていると思います。

2つ目は、高専は天井が抜けていること。多くの高校は、偏差値が基準です。したがって、一定レベルの偏差値の人たちが集まる一方で、高専に集まった学生は、偏差値という枠にはまらず、たまにめちゃくちゃすごい人が混ざっている印象を持ちます。これからは平均値の時代ではなく、一人が世の中を変えられる時代なので、ずば抜けている人のいる環境は重要でしょうね。

3つ目は、高専の学生は意志を持っていること。これはすごくポイントで、高専には中学卒業の時点で、技術をつけたいと考え、高専に入る決断ができる人たちが集まっているんです。なんとなく高校や大学に入り、なんとなく就職する人が多いなか、意志を持つ人が揃う高専だからこそ、インパクトがもたらされるんじゃないかと思います。

伊藤さん:「高専の素晴らしさ三か条」、ありがとうございます。ちなみに大蔵さんは、高専出身と伺っていますが、松尾先生の三か条は……

大蔵さん:全くその通りだと思いますよ。加えて、高専は自由な雰囲気で、15歳から大学生のような学生生活を送れるイメージなんです。15歳~20歳の5年間にわたって身を置くので、先生との距離感も程よく近い。独特な人間性が育まれる環境だと思いますね。

そういえば先日、ある会議に参加した時に「この人高専出身かもな」と感じた人がいたんです。すると、向こうから「大蔵さんって高専出身ですか?」と先に聞かれてしまいました(笑)。高専出身者はどこか空気感が似ているんでしょうね。

伊藤さん:高専に空気がある、というのは面白いですね。
さて、島田さんは普段、自室以外の住まいを全て解放して、地元の10代~20代の若者が自由に出入りし、共同生活をする暮らしを行っているそうですが、高専の生徒から独特さを感じたエピソードはありますか?

島田さん:ありますよ、高専生はユニークな人が多いです。ある時、洗面所で彼らがわいわいしていたので覗いてみると、食器用洗剤の裏に書いてある界面活性剤のパーセンテージの話で盛り上がっていたんです…!(笑)。

それで、手が荒れやすい人が遊びに来た時には、「こっち使いなよ、界面活性剤が7%以下だから」って渡していたり。

松尾さん:分かるなあ。すごくオタクで、突っ走っている子が多いんですよね。時に翻訳が必要なんだけど、潜在的なバリューが高い。シリコンバレーのエンジニアも何かを極めているオタク気質が多いので、共通点を感じます。

高専って、都会から少し離れたところに位置することが多いので、変な刺激が入らないので、精神と時の部屋っぽいというか、伸びる人はひたすら伸びていくんです。一般の高校や大学に行くと、頑張っていると「意識高い系」なんて揶揄されてしまう風潮がありますが、高専では頑張るのがすごい、という空気感。ものづくりをやるので、結局実力勝負みたいな認識があるんでしょうね。

《イベントの参加者のコメント》

「私自身も高専出身で、専門性を磨ける環境に感謝しています。一方で、進路が限定的になってしまったことは後悔しています。テクノロジーだけでなく、ビジネスや仕組みのデザインも学べる学校になってほしいです」

「やりたいことがあっても、普通の学校ではなかなか挑戦できる環境がないように思います。社会に出ると、挑戦する人こそ重宝されるので、神山まるごと高専には自分を活かして挑戦できるような教育の実現に期待したいです」

介入されないことで、人はのびのび育っていく

伊藤さん:次は、島田さんに「高専に入学するような年齢・世代の子は、どんなものを求めているのか?」をお伺いします。

島田さん:はい、実は私の自宅に出入りする10代~20代の人たち30人くらいに、「みんなって何求めてるの?」と聞いて、皆さんに倣って四か条にまとめてみました(笑)。

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作家/MC 島田 彩 さん 

島田さん:1つ目は、「介入されないこと」。基本大人からは何もせず、求めてくれた時に初めて、応援のサポートをするのが良いんだろうなと思っていて。「何も教えてくれなくていい」と言う子もいたくらいだったので、自分で動いて自分で選択する、という自由を大切にできると良いと思いますね。

うちが解放している自宅では、基本的にルールは全くなく、自由に過ごしてもらっています。愛を込めて放置しているイメージです。放っておいた方がのびのびしていて、みんなが勝手に仲良くなってくれる。

それに、誰かが「勉強しよう」と誘って、みんなでやる雰囲気が流れても、気が進まない人は「俺ちょっと抜けるわ」と言って去っていく。一匹狼がいても、変な奴だというレッテルを誰も貼らないで「分かった、オッケー」とその子のスタンスを尊重する、自由な文化なんです。

大蔵さん:確かにそうですね。ちなみに僕も、高専で先生から介入された記憶は、まったくないですよ。指導というよりも、人生の先輩としてアドバイスをもらっていたイメージ。生きていく上で核となる、人間性の部分と向き合ってもらうことはあって、相談できるガイド役やメンターのような立場でいてくれていました。年齢も近い若い先生が多かったですし、いい意味で友達のようにフランクに。

島田さん:それは良いですね!介入はしなくとも、目の行き届く範囲内に、お手本になるような尊敬できる大人の存在がいることに、意味がありますよね。困った時に、声をかけられるような距離感で。生徒たちはそういう存在を見て勝手に学ぶんじゃないでしょうか。

四か条の2つ目は、「理由が分かること」。学校の授業やちょっとした指導において、どうしてそれがいいのか・ダメなのか。ルールと共に、理由を知ることは、生徒たちにとって大事みたいです。

3つ目は、「違和感と問いかけを尊重されること」。「質問したらどう思われるかな」と不安なこともあるけど、少数派だったとしても、ちゃんと意見が尊重されると「一人ひとりが大切にされてるな」と感じられるみたいです。

最後は、「学び方自体を学びたいということ」。「どういう時にこの計算が必要になるかを考える」といった学びの背景や、その方法を知りたいって声がありました。学び方を掴めると、目の前のペン1本からでも工学を学んだり、コップ1つからでも科学を学んだりできると思うんですよね。教科書や先生も大事ですが、学び方の面白さを伝えて、興味を持ちさえすれば、10代や20代は、勝手にどんどん学んでいくんじゃないでしょうか。

《イベントの参加者からいただいたコメント》

「自分の高校時代は、周りの大人から「公務員になって地元に帰ってくることが人生の成功」だと教えられてきました。神山町の大人は、子どもたちの視野を広げて、一人ひとりの選択肢を増やす関わりをしてほしいです。応援しています」

「息子がいるのですが、保育園時代はのびのびと過ごしていたのに、小学生に上がると周りが気になるようになって、丸くなってしまいました。高専のような雰囲気の中で、「自分が輝ける場所がある」と本人が自覚して、個性を伸ばしていけたら良いですよね」

誰かが突き抜けると、周りも変わる。相互作用が教育の可能性

伊藤さん:高専の特徴として、人材の天井が抜けているという話がありました。天井が抜けている人が周りにいると、どんないい影響があるのでしょうか。これを最後の問いにしようと思います。

松尾さん:初めはエンジニアなんて、すごく遠い世界のように思えたことも、身近な友人がエンジニアになると、一気に身近なものに変わると思うんです。「あいつができるなら、自分にもできるかも」みたいに、良い誤解が始まる。

できるかもと思えるから実現していくし、相互作用でポジティブなフィードバックがどんどん巡り、ある地点からすごいたくさんの人たちが輩出される。教育の可能性は、ここにあるように思います。

江戸時代の松下村塾は、その好例。松下村塾は山口県の田舎の萩に位置し、非常に短い期間しか運営していなかったのに、次の時代を先導する久坂玄瑞や高杉晋作などの秀才を輩出しました。

田舎町で何もなかった場所から、なぜ秀才たちが量産されたかというと、お互いに刺激し合って能力を高め合ったから。ポジティブフィードバックの効果は、想像以上に絶大です。神山まるごと高専がそんな空間になると理想ですね。

高木さん:僕がシェアハウスの事業をやっていた時も、確かに誰かが起業すると、影響されて周りもどんどん起業していたので、コミュニティの力を感じます。神山まるごと高専のプロジェクトの面白いところは、大蔵さん・寺田さん・山川さんという、起業経験がある方々が作っていて、リアリティがあること。自分の手の届く範囲に、起業という将来のパスがあると思えるんじゃないかな。

山川さん:そうだね。私は、自分の人生を生きるという観点において、起業はすばらしいことだと思うんです。自分で勝負して、自分にすべてのフィードバックがきて、自分のレベルを上げるしかない、言い訳をすることができない生き方だから。

10代や20代のうちからそんな生き方に触れて、自分の人生を生きる選択をした先に、やりたいことがどんどん磨かれていくと思う。そんなきっかけを、この神山まるごと高専から生み出していきたいですね。

高木さん:僕は数年前、インドネシア・バリのグリーンスクールに足を運んだことがあるのですが、めちゃめちゃ面白かったんですよ。すごいド田舎に、本気で世界を変えようとしている人たちが集まって、ものを作っている。校舎だけがあるような、ほとんど何もないような場所から、実際にSDGsなどの分野を引っ張っていく、世界を変える人たちがリーダーが生まれている。

多分都会で何気なく生活していたら、そのレベルでの濃度は保てなかったはず。ある意味、現実から離された夢のような世界だからこそ生まれる、熱量の伝播を感じますよね。神山まるごと高専も、都会と切り離された世界だからこそ、どんな熱狂が生まれ、ホットスポットになっていくのか楽しみですね。

寺田さん:そうですね!小さくても、神山まるごと高専という1つのケースができると、可能性が広がっていくはず。学校としての単位はもちろん、その学校に集まる一人ひとりの子どもたちが、それぞれ特異的なケースとして育まれていくと、相互作用が起き、熱量が生まれる。そんな学校を作っていきたいと思います!

【イベント登壇者プロフィール】
ホスト
大蔵 峰樹 神山まるごと高専 校長・株式会社ZOZOテクノロジーズ取締役
国立福井工業高等専門学校を経て、大学院在学中に起業。ZOZOTOWNのサービス開発に協力したのをきっかけに、ZOZOに入社。2015年にCTOに就任

寺田 親弘 神山まるごと高専 理事長・Sansan株式会社CEO
三井物産在職時に、米国シリコンバレーでベンチャー企業の日本向けビジネス展開支援に従事。2007年に、Sansan株式会社を創業。

山川 咲 神山まるごと高専 クリエイティブディレクター・株式会社SANU取締役
2012年にCRAZY WEDDING創設。2020年3月27日にCRAZYを退任し独立後、ホテル&レジデンスブランドSANUの非常勤取締役及びCreative Boardに就任。

ゲスト
松尾 豊 さん 東京大学院工学研究科教授
2005年より、スタンフォード大学客員研究員を務め、2019年より現職。2017年には、日本ディープラーニング協会代表理事に就任。

高木 新平 さん 株式会社NEWPEACE代表
博報堂でクリエイティブに携わった後、2014年にNEWPEACEを創業。社会課題からナラティブを組み立てる新しい時代のブランディング「VISIONING®」を実践。

島田 彩 さん 作家/MC
教育・就活分野のソーシャルデザインに取り組んだ後、2020年6月に独立。エッセイや脚本などを書く作家活動を中心に、企画やデザイン、司会業も行う。

モデレーター
伊藤 有 さん
 Business Insider Japan 編集長
2000年代初頭から大手IT出版社の雑誌、およびPC/IT週刊誌で、ハードウェアからWebサービスまで、BtoCテクノロジー全般を主戦場に活動。媒体連動のWebメディアの立ち上げや、日本唯一のアップル発表会の現地生放送の企画・出演、3万人規模のコンシューマー向けITイベントの立ち上げ・企画・運営など形式を問わないメディア展開を手がける。編集長代理を務めた後、Business Insider Japan副編集長/テクノロジー統括、2020年1月から編集長。

※設置構想中のため、今後内容変更の可能性があります。

[取材構成編集・文] 水玉綾、林将寛