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神山学び日誌 Vo.1 神山まるごと高専の入試設計の裏側

皆さん、こんにちは。神山まるごと高専 事務局長の松坂です。
2021年に神山町に家族とともに移住をして、学校の立ち上げから開校後は日々の学校運営の現場を見ています。この神山まるごと高専の事務局長の立場で、学校運営に日々向き合っていると、さまざまなご質問をいただきます。

この「神山学び日誌」では、私たちのトライが少しでも皆さんのお役に立てるように、日々学んだことや貯めた知見をシェアしていきたいと思います。

マッチングを重視する入試

神山まるごと高専の入試を紹介すると「他の学校と違う」「変わってる」とよく言われます。今回は神山まるごと高専の入試の特徴や、なぜそのような入試にしているのか、という入試に込めた考え方について、解説していきたいと思います。

まず、私たちの入試を語る上で欠かせないキーワードが、「マッチング」というキーワードです。入試ではまだまだ「偏差値」という物差しが中心に根強く残ってます。ですが「学校には一つひとつ違った特色があるのだから、その特色にマッチする可能性が高い学生が入学できるような入試にしたい」というのが私たちの大前提の考え方です。

なぜこのような考え方に至ったのかというと、当校の創業メンバーには起業家、つまりビジネスサイドの人々が多数いることも大きいと思います。一般的な企業・会社の採用活動では企業ごとに求める人物像が異なり、評価する軸も評価方法も様々です。

例えばサービス業の会社で求めるのはコミュニケーション力が高い人、製造業の会社では1つの物事を深く探究できるような人、などです。元々、私自身、人材コンサル会社を経営していたので、多少採用に関しての業界動向を知っていますが、昨今の企業の採用活動では学歴や学力に過度に傾倒した採用試験を行う企業は減少傾向にあり、そこに代わって「マッチング」という言葉が台頭してきています。端的に言えば、「企業と学生の相性が大事だ」ということです。

この考え方は、学校においても適応できるのではないかと考え、当校では、企業の採用活動の考え方を入試に活かしてマッチングをはかった入試を行っています。学力試験をベースにした「学力」を見るのではなく、企業の採用活動のように「マッチング」を見ていると捉えていただくと、当校の入試に対する理解はスムーズだと思います。

では、私たちの学校にマッチするのはどのような人か。それをまとめたのが下記の5つです。

  • IT分野におけるモノづくりに対して興味や関心がある人

  • 多様な価値観を受け入れ、自分の意見を伝えられる人

  • 情報を適切に処理することができる思考力がある人

  • 正解のない問いに対して、独自の解を出せる人

  • 必要な学習を続ける意欲があり、学んだことを活かせる人

これらは、入試説明会や学校説明会の場で中学生の皆さんに公開・説明しているものです。もう少し詳しく説明します。

よく志望者から「プログラミング経験がないといけませんか?」という質問をいただきます。上記には「プログラミング経験がある人」と書かれていません。ですから、当校を受験するのに、プログラミング経験は必要条件ではありません。たしかに、プログラミング経験があれば「1.モノづくりに関する興味や関心がある人」に当てはまる可能性は高まりますが、他の方法でモノづくりに関する興味や関心を示していただければ十分である、と理解していただければと思います。

また「偏差値は高くないといけないんでしょうか?」「不登校なんですが大丈夫でしょうか?」「英検などの資格は入試に活かせますか?」などもよくいただく質問です。

これらも全て求める学生像に該当するか、で考えると当校のスタンスが見えてきます。例えば、偏差値や不登校については、「3.情報を適切に処理する思考力がある人」「5.必要な学習を続ける意欲があり、学んだことを活かせる人」であることが必要条件であって、必ずしも直接的に偏差値や学力の高い人や、皆勤賞の人を求めているわけではありません。

大切なことは、とにかく当校の求める学生像との総合的なマッチングなのです。

多様な個性を引き出す入試方法

では具体的に、マッチング度合いをどう測るのか。

当校として完成されたものはなく、毎年の入試活動を通して模索を続けている中ですが、これまでの入試方法には手応えも持っています。入試方式によって一部異なりますが、当校の入試方法は下記のような内容になっています。

「課題レポート」や「学習プロセス」など、入試方法としてはあまり耳慣れないものかもしれません。具体的にどのような方法なのか。「課題レポート」を例にとって紹介したいと思います。

課題レポートは、開校初年度から毎年出している当校恒例の入試方法の一つです。「よーいスタート」で60分の試験を受けるという形式ではなく、出願開始日よりも前に公開された課題に対して取り組み、出願時に提出をしていただく、という形式です。昨年度出された課題レポートの一部を下記にご紹介します。

過去3年間におけるあなたのモノづくりの歴史を、
90秒動画で自己PRしてください。

2024年度 課題レポート 動画課題

これらも全て、「求める学生像とのマッチ」を基準に考えられています。

お題となっている「モノづくりの歴史」は、「1.モノづくりに興味や関心がある人」であるか、が問われています。モノづくりに興味や関心がある人は、その興味や関心が生まれた原体験となるモノづくりが何かあるはずです。

もし、モノづくりの経験がないのであれば、入学前に実際にモノづくりをしてみて「モノづくりが楽しい」「もっと探究したい」と思えるのか、が問われているのです。

そして、提出形式となっている90秒動画ですが、ここで求められているのは動画制作能力ではありません。むしろ、大半の受験生が、動画をつくった経験はほとんどなかったようです。それでも動画をつくることができたのは、「動画ってどうやって作るんだろう?」「あ、こうやってつくるんだ」「これができるなら、こうしたらどうだろう?」と未知のものに挑戦する中で、新しい知識や技術を学んでいったからではないでしょうか。そして、これは当校の求める学生像「5.必要な学習を続ける意欲があり、学んだことを活かせる人」という観点と合致するわけです。

もう一つの課題レポートについても見てみましょう。

あなたが住む地域の魅力を発見し、その魅力をテクノロジーを活用して
さらに向上するアイデアを提案してください。

2024年度 課題レポート 自由表現課題

これは「自分が住む地域の魅力とは?」「地域の魅力を向上するアイデアとは?」など正解のない問いに対して考えていくことが求められており、求める学生像 の「4.正解のない問いに対して、独自の解を出せる人」を選抜するための方法になっています。

「テクノロジーを活用して」という条件の中には、世の中にあるテクノロジーに対するアンテナを問う意図もあるので「1.モノづくりに興味や関心がある人」「5.必要な学習を続ける意欲があり、学んだことを活かせる人」を問われることにもなります。

全てにおいて、求める学生像と紐付けて、お題や課題を提供するのが、当校としてのスタンスです。マッチングを図るための方法としてつくられた課題であるということをご理解いただけるのではないでしょうか。

「入試は学校生活の疑似体験場」という考え方

さらに言えば、これらの課題レポートは、出願開始前にお題を公開している、ということも大きなポイントです。大人でも簡単ではない問いですから、受験生がスラスラ答えられるとは思っていませんし、考えること自体に一定の負荷がかかります。もし、マッチ度が低く、モノづくりへの興味・関心や、正解のない問いに対する探究心が不足している場合、課題レポートに取り組むこと自体がフラストレーションになると思います。
もっと言えば、課題レポートに取り組む中で、その手が止まり、「私、なんでこんなことやってるんだろう?」と思って、受験自体を取りやめることもあると思っています。このように、課題の中でマッチングが図られ、マッチ度が高い人だけが出願する仕組みにもなっているのです。

入試で求められることと、入学した後に求められることは、同じベクトルであったほうがいいと思っています。当校が入試で正解のない問いを出しているのは、入学後に正解のない問いに向き合うからです。入試でこれまでやったことがないであろう新たな学習を求めるのは、入学後に新たな学習が必要になるからです。そういう意味で、「入試は学校の疑似体験場」であるべきではないかと思うのです。

大事なことは、 やれるかどうかよりも、まずやってみようと思えるか。そして、やる中で、もっとやってみたいと思えるか、です。

課題レポートを 最後までやり遂げられる生徒は、マッチングの第一段階をクリアしている、と言ってよいのだと思っています。
そういう意味で、当校とのマッチングを確かめる一番手っ取り早い方法は、当校の入試過去問ページを見ていただいて、「楽しそう」「やってみたい」と思えるかどうかなのかもしれません。

子どもが成長する入試をつくりたい

そして、こうした入試をやっている中で、頻繁にもらう声があります。それは、「入試に取り組む中で、子どもが成長した」という声です。

先日、在校生の保護者にアンケートをとりました。「入試を通じて、子どもの成長を感じましたか?(5段階から選択)」という問いです。その結果は、5段階中平均4.7点という高スコアだったのです。
驚いたことに、入試で不合格だった方からも「神山まるごと高専の入試で成長できたことが高校生活に役立ってます」という声をもらうことがあります。

どのような教育を行おうとしているのか。どのように学生に向き合おうとしているのか。「学校の疑似体験場」である入試に私たちなりの考えを詰め込んでいます。その結果、「入試を通じて沢山の成長があった。だから入学後もきっと成長するだろう」と思ってもらえたのではないかなと感じています。新設校にもかかわらず、多くの方に受験して頂けたのは、入試を通じて子どもが成長する姿そのものが、保護者の方にとっての安心材料になったという側面もあったのではないかと思うのです。

受験の話をすると、最もよく聞かれる質問があります。
それは「どうやって入試対策すればいいですか?」という質問です。まず初めにお伝えしたいことは、私たちは「入試対策をしてほしい」と願っていません。入試の対策をするよりも、将来に向けて成長することの方がよほど優先順位が高いと思っています。私たち神山まるごと高専の願いは「成長してほしい」ということです。

成長するといっても様々な方向性があると思います。習い事に真剣に打ち込んで得られる成長もありますし、勉強して様々な知識を身につけることで得られる成長もあります。だからこそ、「どのような成長を望むのか?」の答えに、個性は出ると思っています。そして、私たちは「モノをつくる力で、コトを起こす人になりたい」と思う人を全力で応援したい。子どもが成長する入試をつくりたいと思っているのです。

もちろん、合格が成長のモチベーションの一つになるのであればそれは嬉しいですし、神山まるごと高専のイベントで出される様々なお題を成長のきっかけにしてもらえることも嬉しいです。

でも、神山まるごと高専に合わせることは望んでいません。合格は目標にはなりえても、目的にはならないと思うのです。入試のための学習ではなく、将来のための学習が、結果的に神山まるごと高専の入試に役立つことがある、という流れが理想的だと思うのです。

だから、「どうやって入試対策すればいいですか?」に対する答えは、「そのまま自分らしく成長して、そのままぶつかってきてください」だと思うのです。

当校に興味を持っていただけた方には、ぜひ10月1日に公開される課題レポートに取り組んでみて欲しいと思っています。

課題レポートを見て、「楽しそう」「やってみたい」と思えたらぜひ挑戦して見てほしい。挑戦する中で見える発見がある。その中で得られる成長がある。私たちはそう信じています。

入試時期にももちろん意図を込めています。最終試験であと一歩不合格だった人に、再チャレンジを可能にしているのにも意図があります。途中でやめることも一つの手です。神山まるごと高専とはマッチしなかった。それだけです。
当校とのマッチが人生における正解ではありません。もし、取り組む中で悔しさを感じたら、それは乗り越えるべき成長の壁に挑んでいるのだと思います。だから、頑張ってほしい。受験生のみんなへ心からエールを送りたいと思います。


2025年度の入試情報はこちらからご覧ください。